武貞秀士 北朝鮮との対話の好機を逃すな!

訪朝でわかった対日政策変化の兆候

── 武貞さんは、アントニオ猪木参院議員に同行して9月8日から北朝鮮を訪問しました。

武貞 「日本を元気にする会」の猪木寛至・参議院議員、「日本維新の会」の松浪健太・衆院議員、秘書、トレーナーらとともに平壌を訪問しました。スポーツ交流を通じて日朝両国の信頼関係を深め、平和構築に貢献しようというのが、猪木議員らの立場です。いま北朝鮮は新しい体制のもとでスポーツ交流を促進しようとしており、リオ五輪にも崔竜海国家体育委員会指導委員長が出席しました。

 9月9日は北朝鮮の建国記念日の日です。もしかしたら北朝鮮の要人らとも会えるかもしれないと思い、私は研究者の立場で猪木議員らに同行しました。動向分析をしている研究者としては普通の考えだと思います。

 2月以降、北朝鮮への渡航自粛令がでていますが、2月以降、いろいろな行事があるときには日本の取材チームや市民マラソンランナーらは北朝鮮を訪問しています。9月24日から北朝鮮が初めての航空ショーを開催したとき、日本のメディアも航空ショーの取材をしています。現地で取材をすれば、様々な情報を得ることができるということでしょう。

 我々の訪朝に関して批判的な意見があることは知っていますが、私は交流のチャンネルを維持することは重要なことだと考えています。交流を遮断してしまえば、北朝鮮の情報は入ってこなくなります。

 今回、我々が平壌で懇談をした李洙墉朝鮮労働党中央委員会副委員長は、前外務大臣であり、党政治局員であり朝鮮労働党の国際部長でもあります。彼は、駐ジュネーヴ代表団公使を務め、スイス留学中の金正恩の身の回りの世話をしていた人です。金正恩の右腕として北朝鮮の外交全般を取り仕切っています。

 李洙墉(リ・スヨン)中央委員会副委員長は5月31日、大規模代表団を率いて中国を訪問して、翌日、習近平総書記と会談しています。

 今回、李洙墉氏が朝日友好親善協会の顧問を務めていることがわかったのです。これは、北朝鮮が対日外交の優先順位を相当上げてきていることを示しています。我々が訪朝しなければ、こうした北朝鮮の変化をつかむことはできませんでした。

 懇談した際、「私は安倍内閣の拉致問題に関する有識者懇談会に出席する学者の一人として、拉致の問題について政権に対して助言をする立場にあります」と自己紹介しました。拉致問題、核問題、ミサイル問題では日本と北朝鮮の考えは異なる。だから学者、国会議員、マスコミ、政府同士などさまざまなレベルでの直接対話が必要だと言及しました。訪問団のほかのメンバーは拉致問題、核実験について、北朝鮮の考えを質問しました。

 金正恩委員長の「日朝関係が大変な時期によくぞ平壌にきてくださった」というメッセージが李洙墉副委員長を通して届きました。今回の訪問に際して北朝鮮側が猪木議員を団長とする訪問団に対する接遇を考えると、北朝鮮が日本との関係を軽視しているのではないという非常に重要な事実を確認することができました。

SLBM開発に成功した北朝鮮

── 9月9日に北朝鮮は5回目の核実験を行いました。同国の核戦力は強化されているのでしょうか。

武貞 北朝鮮の核戦力は着実に向上しています。こういう言い方をすると、「核戦力向上をアピールしたい北朝鮮のお先棒を担いでいる」と批判されるのですが、事実を直視しなければなりません。

 北朝鮮のミサイルの命中精度は急速に向上しています。9月5日に北朝鮮が発射したノドンミサイルの最大射程距離は1300キロです。従来、このミサイルが落下するときの誤差の平均は、半径3~4キロと言われていましたが、今回はすべて1キロ内に落下しています。驚くべき技術改良です。核兵器の小型化、軽量化も進んでいます。8月以降の実験で弾頭の大気圏内再突入に成功しています。

 さらに注目すべきが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発です。これまで北朝鮮は、SLBMの開発に力を入れてきましたが、ついに8月には開発に成功したと見られています。SLBMの保有は、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インドに次いで7カ国目です。

 アメリカは、北朝鮮の核兵器に対抗して、様々な防衛システムを整えてきました。弾道ミサイル迎撃用の艦対空ミサイルSM3、地対空誘導弾パトリオットのPAC3、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の他、大気圏外で撃ち落とすミサイル防衛システムを研究中です。

 しかし、SLBMの開発に成功した北朝鮮が原子力潜水艦を完成させたら、核攻撃に対する防御は極めて困難になります。北朝鮮の軍事分野の優先課題は、実際に運用できる原子力潜水艦を3、4隻保有することと、核弾頭の多弾頭化と量産でしょう。北朝鮮が大型の潜水艦を建造しているという報道がありますが、アメリカ本土を攻撃できる核攻撃能力を持つという北朝鮮の意思が明確ですから潜水艦の大型化につとめている可能性は十分です。……

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