稲村公望 左右が連携してグローバル企業に抵抗せよ

 TPPは「大筋合意」したものの、各国の批准の見通しは立っていない。アメリカでは、協定の内容が明らかになるにつれて、反対論が強まりつつある。特にグローバル企業の支配が強まることに対する警戒感が高まっている。グローバル企業の支配に対する抵抗運動に力を与えているのが、米国の消費者運動家ラルフ・ネーダー氏が昨年著した『Unstoppable: The Emerging Left-Right Alliance to Dismantle the Corporate State〈もうとまらない 企業国家をぶっつぶす右派・左派連合の台頭〉(仮訳)』だ。同書は、グローバル企業の支配を打破するため左派と右派が手を結ぶための方法を提示している。いち早く同書に注目した稲村公望氏に聞いた。

保守・革新、右翼・左翼が手を組める二五の論点

── ネーダー氏は、右派と左派の連携を呼びかけています。

稲村 もはやグローバル企業の支配に抵抗するには、国民が団結しなければならないということです。「保守・革新」、「右翼・左翼」といったレッテルにとらわれている場合ではないということです。むしろ、右翼と左翼がグローバル企業によって分断され、結局両者ともに利用されているという認識があるのです。

 昨年5月、労働長官も務めた経済学者のロバート・ライシュ氏が、「新ポピュリズムの6原則」と題して、左右のポピュリズムが連携する可能性を示唆しています。ライシュ氏は、右派と左派には、依然として隔たりはあるものの、新自由主義への反抗を強める中で、互いに歩み寄りを見せていると指摘しています。

 つまり、エリザベス・ウォーレン上院議員らの民主党議員だけではなく、共和党の中からもロン・ポールの息子のランド・ポール上院議員ら、新自由主義への反感を公然と述べる議員が登場しています。共和党のジェフ・セッションズ上院議員は、主権と議会をないがしろにする国際的な官僚組織の謀略があると糾弾しています。こうした動きは、アメリカにおけるTPP批准を非常に困難にするだけではなく、大統領選挙にも強い影響を与えることになります。

 注目すべきは、ネーダー氏が左右で連携できる論点を具体的に示している点です。『Unstoppable』には、以下の25の論点が挙げられています。

①国防予算に対する監査要求 ②政府補助金に対する監査確立 ③政府調達の効率化の促進 ④物価上昇に見合う最低賃金 ⑤税制改革 ⑥「巨大過ぎてつぶせない」銀行の解体 ⑦慈善事業に対する支援拡大 ⑧訴訟費用の軽減 ⑨住民投票などの直接民主主義の拡大 ⑩地域に根差した組織の支援 ⑪選挙での競争を妨げる障害の除去 ⑫市民的自由の保護と拡大 ⑬学生に対する社会教育の拡大 ⑭連邦議会の宣戦布告権に基づかない武力行使の中止 ⑮国家主権を損なう貿易協定の見直し ⑯商業主義から子供を保護すること ⑰企業人格の廃止 ⑱企業によるコモンズ(共同利用地)独占の抑制 ⑲企業犯罪の厳罰化 ⑳小さな株主へ力を与えること ㉑遺伝子など生命に関する特許の禁止 ㉒薬物との戦いの実効性強化 ㉓環境保護の強化㉔健康問題への取り組み強化 ㉕左右連携の組織形成

 ネーダー氏は、このいずれもが右派と左派が連携して進められる論点だと主張しています。25のうち、多くの論点が、市民の力を強め、グローバル企業の力を弱める方向に働くものです。『Unstoppable』最終章は「大金持ちへの手紙」と題され、富裕層がとるべき行動を提示しています。

 一方、ライシュ氏も、「ウォール街の大銀行を、つぶすには大き過ぎないところまでダウンサイズする」、「投資銀行と商業銀行を分離し、銀行が預金者のお金でギャンブルすることを止めさせる」、「大企業への補助金の撤廃」、「米国人に対する国家安全保障局のスパイ活動の停止」「米国の対外介入の縮小」「大企業主導で作られた貿易協定への反対」という6原則で、左右ポピュリストは一致しつつあると指摘しています。ネーダー氏の挙げた論点と重なります。

日本も左右連携でグローバル企業に抵抗せよ!

── TPPなどグローバル企業支配に抵抗する日本の運動はどうあるべきでしょうか。

稲村 日本でも左派と右派が手を組まなければ、グローバル企業に抵抗することはできません。抽象論でやるのではなく、ネーダー氏が提示したような個別具体的な問題で、広範な勢力を糾合した運動を展開する必要があります。TPP反対でも、右翼と左翼が手を組むべきです。残念なことに、小泉政権以来、新自由主義に取り込まれる保守派が増えています。グローバル企業に奉仕することが愛国者に相応しい態度なのかが厳しく問われなければなりません。こうした中で、人材派遣会社パソナと竹中平蔵氏に抗議した民族派「國の子評論社」が逆に訴えられるという事態ともなっています(本誌8月号参照)。

 東芝の粉飾決算を見ても、企業犯罪の厳罰化が必要だと感じます。「かんぽの宿」がオリックスに一括譲渡されそうになるなど、郵政民営化の中で様々な疑惑がありましたが、お咎めなしでした。問題のある企業を訴えやすくするために、訴訟費用の軽減にも取り組む必要があるかもしれません。こうした問題でも、左右が連繋できると思います。

 私たちは、政府がTPPを強行しようとしている日本の現実を踏まえて、今こそ日米両国民が連携し、保守・リベラル、右翼・左翼のレッテルに区別なく、グローバル企業支配に抵抗する政治運動の構築を急ぐべきなのです。……

以下全文は本誌12月号をご覧ください。