望月衣塑子 それでも私は権力と戦う

安倍政権が5年も続いた原因

 安倍政権の支持率が急落した原因の一つは、マスコミがしっかりと政権批判を始めたことにあると思います。メディアの人間が総理と一緒に食事をとったりせず、最初からまともに仕事をしていれば、この政権が5年も続くことはなかったでしょう。

 マスコミの政権寄りの風潮を打破したのは、東京新聞の望月衣塑子記者だと思います。ここでは、弊誌8月号に掲載した、望月氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は8月号をご覧ください。

権力に国民の怒りをぶつける!

―― 望月さんは社会部の記者でありながら官邸の記者会見に参加し、菅官房長官を厳しく追及しました。

望月 私は森友学園、加計学園などの問題を取材する中で、「権力の中枢で何が起きているのか」という問題意識を強く持ちました。ところが官房長官の記者会見では淡々とした質問ばかりで、国民が疑惑を抱いている問題の本質に切り込む質問は余りありませんでした。それなら国民の疑問や怒りを自分で直接ぶつけてみようと思い、参加することにしたのです。

―― 通常、官房長官の記者会見は一人2~3問、10分程度で終わります。しかし6月8日の記者会見では望月さんが23回質問し、時間が40分という異例の事態になりました。

望月 6月6日の記者会見に初参加して雰囲気を掴んだので、2日目となる8日に思い切って質問しました。当時、政府は加計学園の問題について「文科省の調査の結果、文書は確認できなかった」という結論で幕引きしようとしていたので、私は「再調査をしない理由は何か」と繰り返し尋ねました。

 その様子がテレビで取り上げられると、翌9日に政府は再調査を決定しました。私の質問がどれだけ影響したかは分かりませんが、率直に国民の疑問や怒りをぶつけることに意味はあったのかなと感じています。仮に私の質問が再調査に影響したとすれば、それまで誰もこういう質問をしていなかったのかと不安になりますが……。

―― 慣例では、官房長官が会見後に番記者を囲んでオフレコのぶら下がり取材を受けるようですが、6月8日は菅官房長官がそれをせずに総理執務室に駆け込んだと言われています。

望月 そのようですね。番記者の中には「これでは会見時間が短くなったり、一社一問が義務付けられたり、記者会見が制限される恐れがある。あの女性記者を何とかしろ」という懸念の声があったようにも聞いています。ぶら下がりのオフレコ取材がなくなるのではないかという懸念が出たのではないかと思っています。

 こういう話は以前にもありました。今井尚哉・総理秘書官はオフレコ懇の中で、安保法案に関して安倍総理に質問を投げかけた朝日新聞の記者を無視するようになり、しまいには、あるテレビ局と某新聞社の番記者が「君が来ると今井さんが対応してくれなくなるからもう来ないで欲しい。その代わりオフレコ懇のメモは回すから」と告げたということでした。

 こんな記者が全員とは全く思いませんが、いかに記者が官邸に擦り寄っているかを如実に示しており、記者としてそんな行為をすること自体、恥ずかしくないのかと話を聞いて怒りさえ感じました。

 番記者が情報をとれなくなるのを恐れる気持ちは分かります。実際、安倍総理は聞いた話によると、マスコミへの好き嫌いがはっきりしていて、NHK、日テレ、TBS、読売、産経以外の記者の質問にはきちんと答えないが、菅さんはそういう安倍さんが対応しないマスコミの記者たちをフォローしているとも聞きました。

 しかし聞くべきことを聞かず、言うべきことを言わないのは行き過ぎです。それでは権力の道具として使われてしまう。自戒を込めて言いますが、権力の身近にいる記者こそ厳しい質問や意見を投げかける必要があると思います。……