集団的自衛権の解釈変更に慎重な理由
―― 安倍総理は集団的自衛権の行使容認へ意欲を示しています。これに対して、3月17日に行われた自民党総務懇談会で、大島議員は丁寧に議論していく必要があると主張したと報道されています。改めて集団的自衛権についての見解を教えてください。
大島 私は第二次海部内閣の時に官房副長官の職に任命されておりました。今でも忘れませんが、在職中、平成2年8月2日に第一次湾岸戦争、つまりイラクがクウェートに侵攻するということが起こりました。
国際社会はこの事態に対処すべく、国連決議に基づいて多国籍軍を編成しました。その際、アメリカを中心として、日本もそれ相応の貢献をしろという要請がなされました。「それ相応の貢献」とはズバリ、自衛隊の皆さんを参加させろということです。それはそれは強い要請で、我々は苦しみました。
その時、日本は戦後初めて、自衛隊を海外に派遣するかどうかという局面に立たされたわけです。そして、その時も行き着くところは、集団的自衛権をどのように解釈するかということでした。
当時、国民の皆さんの意見は、自衛隊を派遣するなというものが圧倒的でした。そうした中で議論に議論を重ね、一旦出した法案が残念ながら廃案になるということもありましたが、最終的に宮澤内閣でPKO法案が成立し、集団的自衛権の領域に入らない形で協力していくことになりました。
このような経験があったものですから、集団的自衛権問題というのは、日本のこれからの大きな課題の一つであるという認識はずっと持っておりました。
今、安倍総理が集団的自衛権を取り上げておられるのは、国際社会や周辺国における外交・安全保障上の変化を踏まえた上で、日本の安全を守るためにはこの問題に踏み込まなきゃならんというご判断であるだろうと思います。
これに対して私が総務会で申し上げたのは、集団的自衛権についてこれまでの解釈を変えるのであれば、一つには安定性、もう一つは継続性、そして第三点目として透明性が必要になるのではないか、ということです。
安定性とは何かと言うと、集団的自衛権の行使を容認すれば、日本の軍事能力である自衛隊の皆さんに新たな任務に従事してもらうことになりますから、政府が変わる度に解釈を変えられては、法の信頼が崩れるし、国家の秩序も壊れてしまいます。それを避けるためにも安定性が絶対に必要だということです。
次に継続性について言いますと、自民党は保守政党ですから、歴史を踏まえた上で問題に取り組んでいかねばなりません。戦後日本の繁栄の基礎には、吉田茂総理や鳩山一郎総理、あるいは岸信介総理など、多くの総理の皆さんが日本の平和と安定のために、まさにこの憲法9条の問題でお苦しみになりながらも一つの結論を出してきた積み重ねというものがあります。
とりわけ平和主義につきましては、これは今後も日本の宿命として守っていかねばならないものだと思います。我々は過去にも責任を持ちつつ未来にも責任を持つという、そういう意味での継続性を大事にする必要があるということです。
三点目の透明性というのは、この問題は何よりもまず主権者国民の皆さんに理解してもらわなければなりません。そのためには、大いなる議論を堂々とされた上で結論を出す必要があります。
私は以上のような観点に基づいて集団的自衛権を取り扱うべきだと、このように申し上げました。したがって、この問題について慎重かと言われれば、慎重という立場です。
広く会議を興し万機公論に決すべし
―― 安倍総理は「憲法解釈の最高責任は私にある」と述べるなど、解釈変更にかなり前のめりになっているように見えます。
大島 総理もあの時は強く出てしまったところがあったかもしれません。立憲主義についても、もうあのような答弁はなさらない方がいいでしょう。しかし、最近は総理も非常に慎重に対応されていると思います。
それはやはり、いきなり「我々は集団的自衛権をやるんです」ということになると、国民の皆さんの理解を得るのは難しいでしょうし、私自身としても「ちょっと待った」という思いがあります。……
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