東郷和彦 ウクライナ危機が招く中露同盟という悪夢

ロシアは東ウクライナに軍事侵攻するか

―― 西側諸国はロシアのクリミア併合を追認せざるを得ないということですか。

東郷 西側諸国の首脳たちは明言はしていませんが、正邪の議論は別として、力関係によるクリミア問題はもう終わったと認識していると思います。もはやロシアがクリミアを放棄するとは考えられませんし、国際社会にはクリミア併合を食い止める手立てはありません。

 問題は既に次の段階に移っています。今考えなければならないことは、ウクライナの安定です。

 ウクライナ国内では現在、ウクライナ人同士によって国の存亡を賭けた話し合いが行われています。東部ウクライナのドネツク、ルガンスク州などでは、親ロシア派が治安機関などの拠点を占拠していますが、これに対してウクライナのヤツェニュク首相が4月11日にドネツクを訪れ、自治権拡大の必要性を強調するなど親ロ派を尊重する姿勢を見せています。

 その一方で、ウクライナとの国境付近にはロシア軍が集結しており、依然として予断を許さない状況が続いています。

 とはいえ、ロシア軍をウクライナへ武力侵攻させることは、ロシア自身も望んでいないように見えます。

 というのも、西部と東部でアイデンティティが異なるとはいえ、無辜のウクライナ国民がロシア軍に殺害されるような事態が起これば、ウクライナ・アイデンティティが刺激されるからです。ロシア国内にもウクライナ系の住民はいるので、ロシアは国内に紛争の火種を抱え込むことになるでしょう。

 また、ロシアによる武力侵攻は、今のところ静観を保っているその他のCIS諸国にも否定的反応を呼び起こす可能性大です。

 ただ、もし仮にウクライナ人同士の話し合いが失敗に終わり、西部ウクライナの人たちが東部のロシア系の人々を殺害するような事態が起これば、プーチンが軍隊を入れる恐れがあることは否定できません。

中ロ同盟を阻止せよ

―― G7によるロシア非難には日本も名前を連ねています。その一方で、安倍政権はプーチン政権と北方領土問題解決に向けて協議を進めているので、ロシアを強く批判することを避けているように見えます。プーチン政権はこうした日本の振る舞いをどのように評価しているのでしょうか。

東郷 先ほど述べた3月18日の演説で、プーチンはアメリカやヨーロッパを批判していますが、日本については何も言及していません。それはプーチンが、日本がG7の決定に従いつつもロシア批判を控えていることを評価しているからだと思います。

 安倍政権のこうした対応は日本の国益にも合致します。G7がここでロシアを強く非難しすぎれば、ロシアを間違いなく中国の方に押しやるからです。

 現に、プーチンは演説の中で、「私たちはクリミアでの私たちの行動に理解を示してくれたすべての人に感謝しています。中国の国民に感謝しています。中国指導部はウクライナとクリミアの情勢をその歴史的、政治的全体像を考慮しています」と述べ、中国の対応を高く評価しています。

 ユーラシア大陸における中ロ同盟は、日本だけでなくアメリカにとっても悪夢です。私は以前アメリカの戦略家であるエドワード・ルトワックと議論したことがありますが、彼はその時、「ロシアと中国が手を結ぶことを阻止することこそ、ユーラシア大陸における大戦略の目標である。そのためにも、日本は北方領土を放棄してロシアと関係を強化すべし」とまで言っていました。……

以下全文は本誌5月号をご覧ください。