菊池英博 農協マネー略奪の危機は続く

「農業改革」を促した「在日米国商工会議所」意見書

── 2月9日にJA全中(全国農業協同組合中央会)は、政府・自民党が示していた改革案を受け入れました。

菊池 安倍政権は、「農業を成長産業にするための改革だ」と表向きは主張していますが、日本の国富をアメリカに売り渡すことになりかねない、極めて危険な「カイカク」です。

 農協の金融機能を金融庁の傘下に置けという要求は、10年前の郵政公社の民営化と同じ論理です。アメリカは、農業改革と称して、農協関係の金融資産を強奪しようとしているのです。

 昨年6月24日に「規制改革実施計画」が閣議決定され、農業分野の規制改革の方針が示されました。この計画が出されたとき、自民党内でも、強い異論が出ていました。例えば、野田聖子総務会長は「農協改革は郵政民営化と同じじゃないか」と農協改革をとりまとめる森山裕総務会長代理に迫ったと報じられています。郵政民営化と同じように、「農協改革」によって国富が奪われ、地域社会が破壊されることになるという危機感が示されたのです。

 私が自民党代議士に、「誰がこの計画を書いたのか」と尋ねると、彼は「自民党でも農林水産省でもない。わからない」と答えました。外部の第三者が書いたということです。郵政民営化の原案も誰が作ったか謎とされてきました。「在日米国商工会議所(ACCJ)かゴールドマン・サックスが書いたのではないか」と言われていますが、今回の「規制改革実施計画」もそれと同じような素姓のものと見ていいと思います。

 実際、「規制改革実施計画」が閣議決定される2週間前に、それを後押しするかのように、ACCJが意見書を出していたのです。両者の方向性は酷似しています。規制改革会議の文書がACCJと歩調を合わせて作成されていることは明白です。実際、ACCJ意見書には「こうした施策の実行のため、日本政府及び規制改革会議と緊密に連携し、成功に向けてプロセス全体を通じて支援を行う準備を整えている」と書かれているからです。

 意見書をまとめたのが、ACCJの「保険委員会」と「銀行・金融・キャピタルマーケット委員会」だということに注目すべきです。彼らの狙いが、JAバンクとJA共済にあることは明白です。

農協マネー強奪の危機は去っていない

── JA共済の保有契約高は289兆円(平成25年度)、JAバンクの貯金残高は91兆5000億円(平成26年3月)に上ります。

菊池 約300兆円の郵政マネーが狙われているように、この約380兆円の農協マネーが狙われているのです。

 ACCJの意見書には、「JAグループの金融事業を金融庁規制下にある金融機関と同等の規制に置くよう要請する」と書かれています。そして意見書は、これまで、JAグループの金融事業を金融庁規制下に置かない理由として、金融庁規制下の金融機関と異なり、不特定多数に事業を行わないことが挙げられてきたが、JAグループの金融事業は実質的に不特定多数に事業を行っている状況が長く続いていると指摘したのです。

 彼らがターゲットにしたのが、准組合員制度です。出資金1000円を払えば農業者でなくても准組合員になることができます。ACCJは、「約983万人の組合員のうち、約516万人を准組合員が占めている」と指摘してきたのです。さらに彼らは、JA共済では組合員から徴収する掛金の2割まで、JAバンクでは組合員の貯金残高の25%まで、員外利用が認められていることを問題視したのです。

 実は、このACCJ意見書が出される直前に規制改革会議の農業ワーキング・グループ(WG)がまとめた「農業改革に関する意見」には、「准組合員の事業利用は、正組合員の事業利用の2分の1を越えてはならない」と書かれていたのです。

 利用制限を設けて准組合員を追い出せば、JAバンクやJA共済利用者は銀行や保険会社に流れます。これが、アメリカの狙いで、AIUなど外資系の保険会社に移させようとしているのでしょう。2003~04年の竹中平蔵金融担当大臣が行った小口共済潰しの手口と同じです。この時に、多くの小口共済がAIUなどに吸収されました。

 外資の代弁者や新自由主義者たちは、「equal footing(対等な競争条件)」の美名のもとに、公共サービスが担ってきた機能、国民が助け合うしくみや組織を破壊し、自らの利権にしようとしているのです。

 問題は、農業の専門家ではない民間人たちが、重要な社会的機能を果たしている農協について、勝手な意見をまとめて、政府を動かそうとしていることです。その代表が、農業WGの座長を務めるフューチャーアーキテクトの金丸恭文という人物です。WGは、金丸氏のほか、浦野光人氏(ニチレイ)、滝久雄氏(ぐるなび)、長谷川幸洋氏(東京新聞・中日新聞)、林いづみ氏(桜坂法律事務所)を委員に、株式会社六星取締役の北村歩氏ら5名を専門委員として構成されています。

 2月9日の合意では、准組合員の利用制限導入は見送られたものの、まだ安心できません。今後、どんな法案が出てくるか予想できないのです。

 しかも、WG意見書には「各地の農協が行っている貯金や融資などの事業を農林中央金庫などに移管する」と書かれていました。外資の狙いは農林中金の株式を保有して、金融資産の運用権を手にすることだと見られます。まさに郵政公社民営化と同じ手口です。こうした目論みが断念されない限り、農協マネー略奪の危機は終わらないのです。……

以下全文は本誌4月号をご覧ください。