植草一秀 世界経済混迷下の超巨大増税は経済テロ

野合の上で増税法案強行採決

 野田シロアリ増税が6月26日、衆院本会議で採決され、賛成多数で可決された。野田シロアリ増税の名称は、野田佳彦氏による2009年8月15日に大阪街頭での演説に基づくものだ。野田氏は次のように発言した。

 「消費税5%分の皆さんの税金に、天下り法人がぶら下がっている。シロアリがたかっているんです。それなのに、シロアリを退治しないで、今度は消費税引き上げるんですか?消費税の税収が二十兆円になるなら、また、シロアリがたかるかもしれません。鳩山さんが四年間消費税を引き上げないと言ったのは、そこなんです。シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです。」

 野田政権の消費増税提案に反対する私が、この演説を収録したYou Tube映像をブログで紹介したところ、1週間で再生回数が30万回を突破した。新党「国民の生活が第一」創設後の国会では、森ゆう子議員、三宅雪子議員が、早速この「シロアリ演説」を取り上げて、野田氏の選挙前発言が一段と広く認知されることになった。

 拙著『消費増税亡国論』(飛鳥新社)に野田内閣推進の消費増税提案の不当性を詳述し、本誌7月号の特集記事でもこの問題を論じた。税は国政の基本に関わる最重要問題である。そもそも議会政治は国王による一方的な課税権限をはく奪するところから出発したものだ。「代表なくして課税なし」の言葉がこのことを端的に示している。

 野田佳彦氏は天下りやわたりなどの官僚利権、すなわち、税に群がるシロアリを退治せずに消費増税を行っても、その税収が再びシロアリのエサになってしまうことを訴えた。だからこそ、シロアリを退治しないなかでの増税を阻止すると主張したのである。

 野田氏は国難に直面してやるべきことを先送りするのは、責任ある政治ではないと強弁するが、その前に、国民との約束を反故にすることについて説明が必要だ。自分に都合の悪いことは棚の上に置いて、国民との約束を重んじる行動を口汚くののしるのでは、詐欺師内閣のレッテルを張られても抗弁できないはずだ。

民主党正統派が新党「国民第一」創設

 主権者である国民は、民主党のこの公約を踏まえて民主党に政権を委ねた。その民主党がシロアリ増税を提示して選挙で惨敗した自民党、公明党と結託してシロアリ増税法案を可決してしまったのだ。議会制民主主義を破壊する暴挙と言わざるを得ない。

 この暴挙に対して、民主党内部から反乱の狼煙があがった。小沢一郎元代表を中心とする衆参両院の49名の議員が、7月11日、新党「国民の生活が第一」を発足させた。民主党内には野田シロアリ増税に反対する議員が多数残存しており、次の総選挙に向けて、増税反対勢力が統一戦線を構築する可能性が高まっている。

 小沢氏を代表とする新党の名称が「国民の生活が第一」に定められたことを踏まえれば、野田民主党はいっそのこと、党名を「官僚の生活が第一」に変更した方が良いと思われる。その方が、国民によってはよほど分かり易い政治になるだろう。

 近年、偏向の程度を著しく強めている国営放送NHKは、「追い詰められての新党創設」や「壊し屋と呼ばれる小沢氏による四度目の新党創設」などのフレーズを使って、懸命に新党に対するネガティブキャンペーンを展開している。あからさまな偏向報道は、この新党の活動が、この国の既得権益、すなわち、米官業利権複合体にとって、よほど都合の悪いものであることを、図らずも明示するものになっている。

 国民の多くは財政再建に協力する考えを有しているが、国民に負担を押し付ける前に官僚の利権を取り除くべきだと考えている。2009年の野田シロアリ演説の内容に国民は同意するからこそ、現局面では新党「国民第一」の主張に賛同する者が多いのだ。

 次の総選挙に向けての政局的な分析をする場合、最大の焦点は、「大阪維新」や「みんな」などの第三極の動きをどう捉えるのかということになる。米官業利権複合体が何よりも恐れることは、新党「国民第一」が大勢力に躍進することだ。せっかく民主党から追放したのに、この勢力が躍進しては元も子もない。利権複合体は、主権者国民勢力をせん滅して、利権複合体派の二大勢力を創出して、「利権複合体による日本政治支配」を揺るがすことのない、新しい二大政党体制を構築することを目指している。……

以下全文は本誌8月号をご覧ください。