植草一秀 「アベノミクス」の真相は「アベノリスク」

日経平均株価の急落

 「アベノミクス」のメッキがはがれ始めている。アベノミクスは金融緩和と財政出動と成長政策を「三本の矢」であるとしているが、そもそも、三本の矢とは、一本ずつではたやすく折られてしまう矢を三本組み合わせることで大きな力を発揮するというものである。三つの施策が同時に効果的に実行されることで効果が上がるというものである。

 ところが、この三本の矢が効果的に結束される姿が示されていない。と言うより、それぞれの矢が的を目がけず、あらぬ方向に向かい始めているのである。そこには、安倍政権の政策全体が持つ、大きなリスクが隠されている。アベノミクスの極薄のメッキがはがれると、そこには薄汚い地肌が表れてくる。これが「アベノリスク」である。

 「日本を融解=メルトダウンさせる7つの大罪」がアベノリスクであり、筆者はこれを解き明かす拙著を7月初めに講談社から上梓する。インフレ、消費税大増税不況、TPP、原発、シロアリ増殖、憲法改悪、戦争創作の7つのリスクが日本を覆い始めている。「アベノミクス」のメッキの下に隠されている「アベノリスク」を正確に把握することがいま強く求められている。

 参院選は7月4日公示、7月21日投開票の日程で実施されることが確実視されているが、安倍政権支持・補完勢力が参議院でも3分の2以上の議席を占有すると、極めて重大な事態に陥る。最大の問題は、憲法が改変されてしまうリスクが現実化することだ。とりわけ警戒されるのが96条改正で、憲法改正の発議要件が衆参両院の過半数の賛成に改変されれば、安倍政権が本格的な憲法改悪に突き進む恐れが一気に高まることになる。

 主権者である国民は、参院選に際して、安倍政権が持つ潜在的な巨大リスクである「アベノリスク」を徹底的に考察し、判断を誤らないようにしなければならない。

 5月22日に1万5627円の高値をつけた日経平均株価が急落し、6月13日には1万2445円にまで達してしまった。昨年11月14日の党首討論で衆院解散が宣言され、ここから安倍政権誕生予想が生まれ、円安・株高の市場反応が広がった。日経平均株価は8664円から半年の時間をかけて6963円上昇したが、その45・7%にあたる3182円が、5月23日以降の、わずか20日間で消滅した。

折れてしまった第一と第二の矢

 株価が急上昇した背景を二つ指摘できる。第一は、日本の株価が著しく割安な水準に引き寄せられていたこと。菅政権、野田政権の大増税まっしぐらの経済政策が、日本経済の先行き見通しを著しく悪化させていた。このために、株価は理論的に妥当な水準よりもはるか低位に引き寄せられていたのだ。安倍政権は経済改善を優先するとして、大規模な補正予算を編成し、同時に金融緩和政策強化を提唱した。この方針転換によって、株価が適正水準に回帰する原動力を得た。

 第二の背景は、日本株価が為替レート連動で推移する傾向を有するなかで、安倍政権が円安誘導政策を採用したことだ。2011年年初以来の円ドルレートと日経平均株価の推移を見ると、両者が驚くほどの強い連動関係を有していることが分かる。ドル高は株高、ドル安が株安をもたらしてきた。このなかで、安倍政権は金融緩和政策の強化を打ち出し、これに対する「期待」から、日本の長期金利低下に伴う円安が誘導され、日本株価の急上昇が生じたのである。

 この意味で、昨年11月から本年4月にかけての期間に限って言えば、金融緩和政策の強化という第一の矢と、財政政策発動という第二の矢が組み合わされることによって、円安・株高・景気改善という、良好な経済金融情勢変化がもたらされたと評価できるのである。ここまでは、アベノミクスのメッキが光を放っていた局面であった。……

以下全文は本誌7月号をご覧ください。