青木理 ケント・ギルバートが出した究極のヘイト本

なぜ排外主義的言説がはびこるのか

 現在、書店では多くの排外主義的な書籍が販売されています。言論人の中には「言論の自由」の名のもと、排外主義的な言説を肯定する人もいます。しかし、言論の自由とは、言論の無秩序ではありません。人種差別や民族差別は、いかなる理由があろうとも許容すべきではありません。なぜ日本でこのような言説がはびこるようになってしまったのか、我々は真剣に考える必要があります。

 ここでは、弊誌6月号に掲載した、ジャーナリストの青木理氏の論考を紹介したいと思います。全文は6月号をご覧ください。

罵詈雑言を羅列した下品な侮蔑本

 いまにはじまったことではないが、“嫌中・嫌韓”に類する本が有象無象の出版社から出版され、巷の書店に山積みされている。雑誌にも類似の記事があふれている。当初は取材の必要もあっていくつかの本や記事に目を通したが、すぐにやめた。粗雑な理屈と怪しげな情報、そして差別的な妄想にもとづいて隣国に悪罵を浴びせ、最後は自国賛美でハイ終了。

 つまりは単なるヘイト本であり、何ひとつ得るところがないからである。

 しかし、最近出たケント・ギルバート著『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)は一応読んでみようと思った。理由は2つ。まず、版元がヘイト本を量産する出版社ではなく、日本を代表する最大手の出版社であること。また、かなり売れ行きがよいと伝えられ、すでに発行部数は30万部近くに達し、いまなお売れ続けているらしいこと。

 ならばどんなものか。そう思って手に取ったのだが、数ページめくっただけで激しく後悔した。

 たとえば、「はじめに」と題する序章には、いきなり〈特亜三国〉〈特定アジア〉などという言葉が、ほとんどなんの注釈もなく登場する。中国、韓国、北朝鮮を指すこの言い回しはインターネットの掲示板などが発祥とされ、いまもネット上では盛んに使われているが、はっきりいって隣国を侮蔑する表現であり、まっとうな刊行物ならば決して使わない。まるでネトウヨレベル。

 その後もひどい。ネット上に流通する出所不明の“資料”を〈中国側が作成した〉と記し、その領土拡張の〈欲望〉は〈日本占領計画の一端である可能性も〉などと煽る。その上で中国や韓国にひたすら罵声を浴びせるだけ。本来なら紹介もしたくないが、醜悪さを知ってもらうために以下、原文のまま同書の文章をいくつか引用する。

 〈道徳心や高い倫理観を失った中国人は、自らの利益のためなら法を犯すことすら厭いません。彼らは、息をするように嘘をつきますが、そこに罪悪感は微塵もありません〉(41頁)

 〈救いようがないのが韓国です。戦時中の朝鮮民族は日本の統治下にあって、全員が日本国籍を有し、大和民族とともに日本の勝利のために戦ったにもかかわらず、日本が戦争に負けるとあっさり裏切ったうえに戦勝国ズラ〉(73~74頁)

 〈利他の精神は、自己中心主義の中国人や韓国人には、まったく存在していません。常に自分自身と身内の利益しか考えていない〉(91頁)

 〈嫉妬心や執着心は誰にでも多少はあるものです。しかしその病的なレベルについていえば、韓国人が世界一だと思います〉(93頁) 

 〈中国人の自尊心の異常な強さは(略)コンプレックスの裏返しですが、都合が悪くなったり自分が不利になったりしたときに、何でもかんでも他人のせいにしてしまう気質がよく現れています〉(137頁)

 もう十分だろう。終始一貫、この調子。単なる罵詈雑言を羅列した下品な侮蔑本であり、タイトルにうたった儒教への深い洞察など一切なし。……