東谷暁 国家戦略特区はTPPの受け皿だ

Japan is backward(日本は後退する)

―― 安倍政権は成長戦略の一環として「国家戦略特区」を推進しています。この戦略特区についてどのようにお考えですか。

東谷 私は戦略特区は間違いなくTPPの受け皿であると考えています。安倍政権の成長戦略は、アメリカがTPPやそれと並行して行われている二国間交渉で要求していることをほとんど全て満たしています。

 実際、昨年の11月6日にUSTR(アメリカ通商代表部)のウェンディ・カトラー次席代表代行が、TPP交渉の非関税分野の議論はほとんど全て安倍首相の3本目の矢の構造改革プログラムに入っている、とはっきり述べています。

 カトラーはさらに、安倍首相の成長戦略はアメリカが目指すゴールと方向性が完全に一致しているとも述べています。アメリカは安倍政権の成長戦略にお墨付きを下さったわけです。

 もっとも、カトラーの話を聞くまでもなく、安倍政権の成長戦略を見ればアメリカと示し合わせながらやっていることは容易に想像がつきます。

 安倍政権の成長戦略を分析する上で重要なのは、竹中平蔵氏たちが中心になって作った「日本再興戦略」です。これは昨年6月14日に閣議決定されたものですが、安倍政権の成長戦略はこれに基づいて進められています。

 日本再興戦略についていくつか具体的に見てみますと、例えば国家戦略特区を医療等の国際的イノベーション拠点にし、その一環として外国医師による外国人向け医療を充実させるという話が出てきます。これは今通常国会に法案を提出することになっています。

 また、新薬の承認についても言及されています。既に小泉政権時代に新薬承認の仕組みをかなり改変させられてしまったため、小泉政権以降、金額ベースでおよそ1・5倍もの薬が外国から入るようになりました。安倍政権はこれをさらに加速させようとしているわけです。

 また、公共施設の民間開放についても論じられています。実際、麻生副総理が昨年、アメリカのシンクタンクであるCSISの講演で、上下水道の管理を民間開放するといった話もあると述べていました。

 さらに、企業の農地保有についても明記されています。具体的に言うと「農業生産法人の要件緩和などの所有方式による企業の農業参入の更なる自由化」というものです。かつて菅総理がTPP対応のために農地改革を進めるとポロリと喋ったことがありましたが、私はその時から企業が農地保有できるような方向へ進むだろうと批判してきました。

 また、これは今回の通常国会には提出されないそうですが、労働時間規制の見直しも検討されています。これは第一次安倍政権の時にホワイトカラー・エグゼンプションという形で出てきましたが、これをもう一度やることが既成事実のように語られています。

 日本再興戦略には副題として「Japan is back(日本は戻ってくる)」と記されていますが、とてもそうだとは思えません。この内容を推し進めれば、間違いなく「Japan is backward(日本は後退する)」になるはずです。

―― 東京都を国家戦略特区に指定するという議論もあります。

東谷 特区とはあくまでも産業があまり伸びていないところに設置し、実験を試みるためのものです。小泉政権時代に東大阪が特区にしてくれと頼んで断られたことがありましたが、既に工業地帯や経済の中心地になっているところを特区にするのはナンセンスです。東京を特区にすれば、日本経済の何分の一かを特区にするのと同じですから、特区の意味がありません。

 ただ、どうも竹中さんはやりたがっているようですね。彼は「お白州効果」などと述べていますが、要するに規制緩和に反対する人たちを「お白州」に引っ張り出してみんなで批判し、規制緩和を進めるということです。竹中さんは東京都に対してもそれをやりたいようですが、早いところアメリカの要求を受け入れたいということなのでしょう。……

以下全文は本誌3月号を御覧ください。