青木理×辛淑玉 劣化する保守系ジャーナリズム

「言論の自由」は差別を垂れ流す自由ではない

 東京MXのニュース女子という番組によって、日本国内に沖縄や在日コリアンに対する差別が根強く残っていることが明らかになりました。一部には、言論の自由という観点からニュース女子を擁護する声もありますが、その認識は完全に誤りです。言論の自由とは、事実誤認や差別を垂れ流す自由ではありません。

 ここでは、弊誌3月号に掲載した、ジャーナリストの青木理氏と辛淑玉氏の対談を紹介したいと思います。全文は3月号をご覧ください。

東京MXはメディアとして最低だ

── 1月2日に放送された東京MXのニュース女子という番組で、「沖縄の基地反対運動を扇動する黒幕」、「反対運動に日当を出している」などとして、辛さんに対して名指しで誹謗中傷が行われました。放送をご覧になってどのような印象を持ちましたか。

 最初に放送のことを知ったのは1月3日だったのですが、ざっと映像を見て、正直何が起こっているかわからないというか、びっくりしましたね。ヘイトデモと向き合っている時にも、目の前で笑いながら「死ね」とか「殺せ」と言われたことはあります。だけど、地上波のテレビで同じようなことをやられたというのは、一線を越えた感じがしました。

 私は今回の件についてBPO(放送倫理・番組向上機構)の人権委員会に申し立てを行ったのですが、提出書類を作成するために何度も映像を見直して問題点を整理しなければなりませんでした。それがものすごい苦痛で、自分自身を維持するのがやっとでした。

 ただ、この問題は何とか証拠として残しておかなきゃいけないという思いがあって、そのために誰かと話をして活字にしておきたいと思ったんです。私はこれまでも青木さんの本に心を打たれることが多かったので、青木さんだったら私の言葉が足りないところを整理してもらえるのではないかと思い、今回の対談をお願いしました。

青木 この問題にはいくつも論点があると思いますが、メディア人の端くれとして、一番最初に申し上げたいのはメディアの劣化についてです。きちんとした取材に基づいてさえいれば、そこから導かれる結論や論評がどのようなものであっても構わないと僕は思います。「沖縄の米軍基地反対運動はおかしい」とか「反対派の主張には問題がある」といった論でも、取材を尽くした上でなら、そうした報道はもちろん自由です。

 しかし、今回の放送は取材を尽くしていない。いや、取材などまったくしていないと言っても過言ではない。なのにデマや憶測、偏見に基づいて沖縄や在日コリアンに罵声を浴びせた。これはある種のヘイトスピーチです。

 具体的な例を挙げていけばキリはないし、すでに報じられている部分もありますが、問題の放送ではまず、軍事ジャーナリストを自称する男が沖縄でリポートするVTRが流されました。そのVTRで、彼はトンネルの前に立ち、この先に高江のヘリパッド建設現場があるけれど、反対派の運動が過激化していて近づけない、などとリポートした。

 バカバカしいにもほどがあります。高江ではあらゆるメディアが取材をしているし、そもそもそのトンネルは40キロ以上も離れていた。ほかにも反対運動で救急車の通行が妨害されているとか、警察が取り締まらないのは知事が翁長氏だからだとか、ウソとデマのオンパレードです。

 さらに言えば、番組には司会を務めた東京新聞の長谷川幸洋・論説副主幹をはじめ、メディア界で長く飯を食ってきた人物も出演していました。ところが彼らは、デマとウソだらけのVTRを追認したばかりか、薄ら笑いすら浮かべながらそれを煽った。論外の所業です。

 こんな原則論を言う価値もない放送でしたが、例えば辛さんを名指しで批判するなら、最低でも辛さん側のコメントも取るのがジャーナリズムのイロハのイです。電話一本で済む話なんですから。つまり、メディアとしては何から何まで失格、最低最悪の放送です。

 長谷川氏は批判を受けて「言論の自由の侵害だ」などと言っているようですが、本気でそう思っているとするなら神経を疑います。しかも地上波のテレビでこのような番組が放送されてしまうのは、恐るべきメディアの劣化と言わざるを得ないでしょう。

 東京新聞論説主幹の深田さんがこの件について「責任と反省を深く感じています」というコメントを出していましたが、東京新聞は事の本質をよくわかっていないんだろうという気がします。ジャーナリストがデマを流したんです。それに対して、本人ではない人間が出てきて深く反省を口にし、本人は何も言わずそのまま雇用され続けるというのは、新聞社として自殺行為です。食品に毒を入れて販売した人間を、何のお咎めもなく雇用し続けているようなものです。

 それから、BPOの人権委員会にも、自分たちの判断が社会の基準になるという自覚がないのだろうと思います。先日、BPOから申し立てに対する返答が来たのですが、東京MXともう一度話し合ってくれという内容でした。こちらは何度も連絡していますが、東京MX側は窓口もなく、担当者の名前すら教えず、たらい回しです。話し合いにならない。それでも話し合いが足りないと言うなら、一体どうすればいいのか。

 BPOから連絡が来た後、私の会社のメールや携帯、支援してくださっている企業の方々に辟易するような嫌がらせが続いています。話し合いを塩漬けにされた今、正義はどこにあるんだろうと思いますね。

在日コリアンと親交の深かった安倍晋太郎

青木 もう一点、この問題については保守の劣化という面も指摘しなくちゃいけないと思うんです。僕は一年ほど前、翁長知事に長時間のインタビューをした際、「もともとは沖縄保守だったあなたが、なぜ今のような姿勢になったのか」と尋ねたんです。

 翁長知事曰く、どうしても許せないことが二つあったと。一つは、教科書から沖縄集団自決の記述を消そうとしたこと。もう一つは、沖縄にとって「屈辱の日」とされる4月28日を「主権回復の日」などといって政府主催の記念式典を開いたこと。前者は第一次安倍政権、後者は第二次安倍政権の時のことです。以前の自民党だったら、少なくともこのようなことはしなかった。

 翁長知事の話で印象に残っているのは、戦後保守政治家たちとの思い出話です。例えば翁長知事が若手政治家時代、後藤田正晴氏に「ぜひ沖縄へいらしてください」と水を向けたら、「私は沖縄には行けないんだ」と返答されたと。慌てた翁長氏が「沖縄が何か先生に失礼なことでもしましたか」と問い返すと、後藤田氏はこう漏らしたそうです。「先の大戦のことなどを考えると、沖縄に申し訳なさすぎて向ける顔がないんだ」と。

 もちろん、かつての自民党の保守政治家たちだって沖縄に米軍基地を押しつけ、基地負担の軽減に真剣に取り組んできたとは言い難い。ただ、彼らには沖縄についての最低限の知識と、沖縄が歴史的に押しつけられてきた悲劇への最低限の配慮はあった。

 ところが安倍政権にはそれすらない。恐るべき保守の劣化です。僕としては、翁長知事は反基地運動をしているのではなく、かつてを知る穏健保守として反安倍闘争をしているんじゃないかという印象さえ受けました。

 2013年に翁長さんたちが銀座でデモをした時に、ヘイトデモがありましたよね。彼らは翁長さんたちに対して、日の丸を掲げながら「ゴキブリ」、「ドブネズミ」、「売国奴」などと罵声を浴びせていました。沖縄の人たちがどのような思いで生きてきたのかわからないんでしょうね。

青木 同じことは在日コリアンについても言えると思うんです。これは最近上梓した『安倍三代』(朝日新聞出版)にも書きましたが、安倍首相の父である安倍晋太郎氏は学生時代から級友の在日コリアンと親しくつきあい、選挙の際も地元の在日社会から厚い支援を受けていました。彼の選挙区の下関は在日コリアンが非常に多い場所ですからね。実際に取材すると、民団(在日本大韓民国民団)系はもちろん、総聯(在日本朝鮮人総聯合会)系の在日コリアンも晋太郎氏を慕っているのに驚きました。

 一方の安倍首相は在日の歴史と現実をまったく知らないんでしょう。小学校から大学まで成蹊学園で過ごしたおぼっちゃまで、晋太郎氏のように選挙基盤を必死で耕した経験もない。……

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