西部邁氏の最後のインタビュー
西部邁氏には弊誌のインタビューに何度も応じていただきました。謹んで哀悼の意を表します。弊誌は西部氏からいただいた叱咤激励を胸に、今後も言論活動に取り組んで参ります。
ここでは、弊誌に掲載させていただいた西部氏の最後のインタビューを紹介したいと思います。
「北朝鮮処分」のみならず「日本処分」に備えよ
―― 日本は北朝鮮危機にどう向き合うべきですか。
西部 北朝鮮はアメリカの対応について「宣戦布告だ」と言っていますが、これは正しい。経済制裁はある段階を超えると宣戦布告になります。我々だって対日経済制裁で石油が禁輸されるに及び、とうとう堪りかねて真珠湾に突撃したわけです。日本人が歴史に学んでいれば、好き嫌いは別にして、はっきり言って僕は北朝鮮が嫌いですが、北朝鮮の立場は分かるはずなんです。国連安保理や日本は北朝鮮に宣戦布告をしたと見なされても仕方がない。特に最近はアメリカも北朝鮮ごとき通常兵器で数時間以内に崩壊させられるというメッセージを発し、軍事行動を匂わせていますからね。宣戦布告に等しい経済制裁、あるいはアメリカの軍事行動の示唆に対して、北朝鮮が先制攻撃に出る可能性はある。
北朝鮮情勢は恐ろしくきな臭くなっています。私はCNN放送でトランプ大統領が9月22日にアラバマ州で演説したニュースを観ていましたが、冒頭で「リトル・ロケットマンが騒いでいるが、私が対処する」と言って別の話に移った。北朝鮮に対するメッセージは一行だけです。一方、日本は10月22日に総選挙を行い、中国では18日から一週間程度、共産党大会を開きます。日中両国は10月下旬に安倍政権あるいは習近平体制を整えるわけです。
こういう動きを見ていて、「ああ、そうか」と思いました。戦争が近づいている時には、戦争に関する発言はくどくど言わず、一言二言で済ませる。そして着々と準備を進める。北朝鮮有事が近づいているという認識は日米中の首脳間で密かに共有されているのじゃないでしょうかね。
かつて日本は「琉球処分」を行いましたが、現在はアメリカが「北朝鮮処分」を行おうとしているのではないか。北朝鮮有事になれば日本も他人事ではない。自衛隊が安保法制によって朝鮮半島に派遣される可能性もあれば、ドサクサに紛れて中国が尖閣諸島を狙いにくる可能性すらある。さらに経済的に強い結びつきがある米中が正面衝突できないとなれば、米中が東アジアを共同管理する方向性で一致する可能性は十分にあり、必ずや「北朝鮮処分」のみならず「日本処分」まで想定しているはずであろうと考えざるをえません。
もっとも米中に食い物にされる事態にまでなれば、日本も少しは頑張るだろうから、僕の中には早くそうなってくれっていう気持ちもないわけじゃないが、しかしそれは早めに死にゆく者の無責任というものであって、若者のことを考えれば、やはり今から時間をかけた上での対米自立に布石を打っておかなきゃいけない。
―― 日本には現在の危機を克服する力はないようです。オルテガの言葉に従い、まず自分自身を含めた日本人の体たらくに絶望したいと思います。
西部 結論をいえば、世界大分裂です。グローバリズムの嘘話は終わったのです。現在の世界文明は資本主義が金と技術をめぐって暴走し、民主主義が投票と人気をめぐって暴走した結果として各国が秩序の混乱に見舞われ、その混乱状態を覇権国のパワーポリティクスでねじ伏せようとしている惨憺たる有様であり、かかる世界的大噴火の噴火口として朝鮮半島から何かが噴き出ようとしているということです。
そういう状況の中で百合子ちゃん騒ぎに熱狂している日本人の姿を見れば、愚かにも程があると言いたくもなる。なまじ72年間アメリカの属国状態のもとで平和を唱えることしかしなかった国民はこうなって仕方がない。これはやむをえざる結果なんですね。
だから杉原くんへのメッセージは、僕は年寄りなんで、申し訳ないが「オリンピアン・アルーフ」だと。
―― オリンピアン・アルーフ?
西部 高見の見物だ(笑)。オリンピアの神々が遠く(アルーフ)から、「人間どもよ、バカをやっておるな」と見下ろすという意味です。間もなく死にゆく私には、高見の見物をするしかないが、「餓鬼どもよ、けっぱれや(ボーイズ・ビー・アンビシャス)」と言い残して、おさらばだ。