村山首相よりリベラルな安倍首相

「戦後レジームからの脱却」はどこへ

 安倍首相は12月26、27日にオバマ大統領と一緒に真珠湾を訪問します。菅官房長官は「戦没者の慰霊のための訪問で謝罪のためではない」と述べていますが、真珠湾を訪問すること自体、アメリカへの謝罪という意味を持ちます。

 もちろん、真珠湾訪問は一つの政治的立場としては理解し得るものです。村山富市首相が真珠湾を訪問すれば、村山首相ならばそういう行動をとることもあるだろうと納得できます。しかし、安倍首相は以前より「戦後レジームからの脱却」を唱えていました。戦後レジームとは簡単に言えば、戦後アメリカによって作られた価値観のことであり、日本国憲法や東京裁判史観なども含んでいます。真珠湾訪問はまさに戦後レジームそのものです。戦後レジームからの脱却を訴えていた首相が戦後レジームを強固にするような行動をとっているわけですから、まるで言行が一致していないと言わざるを得ません。

 とはいえ、自らの主義主張を捻じ曲げてでも日米和解のために真珠湾を訪問するというならば、それは評価されてしかるべきでしょう。

 振り返ってみれば、安倍首相は自らの信念に反するような政策をたくさん行っています。例えば、日韓合意がそうです。この合意では「日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」ことになっています。これは事実上の国家補償です。アジア女性基金においても事実上の国家補償が行われていましたので、安倍政権による日韓合意はアジア女性基金を引き継ぐものだと言えます。

岸信介を批判する70年談話

 また、安倍首相が2015年に発表した70年談話もそうです。70年談話には以下のような記述があります。

 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。

 安倍首相はここで満州事変は誤りだったと認めています。しかし、満州国の経営に関わっていたのは、安倍首相の尊敬する祖父・岸信介です。また、満州事変を批判しているという点では、村山談話よりも踏み込んでいると言えます。村山談話では「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り……」となっており、満州事変という具体的な名称は挙げていません。自らの尊敬する祖父を批判してでも70年談話を出したのであれば、それはやはり評価されてしかるべきでしょう。

 そういう意味では、安倍首相は村山首相よりもリベラルな政策を行っていると言えます。戦後これほどリベラルな首相はいなかったのではないでしょうか。

 残念なのは、これほどリベラルな政策を打ち出しているのに、左派やリベラル派から全く支持されていないことです。しかし、安倍首相の思いはいずれきっと左派やリベラル派の心にも届くはずです。安倍首相には是非とも左派・リベラルの批判にめげず、今後もリベラル路線を貫いていっていただきたいものです。(YN)