ついに安倍政権を批判し始めた産経新聞

「土人」発言を擁護する保守派

 大阪府警機動隊員の「土人」発言について、沖縄では強い批判の声が上がっていますが、保守派の中には「土人」は差別語ではないとして、土人発言を擁護する議論を行っている人たちがいます。中でも注目すべきは産経新聞です。11月17日付の産経ニュースは「『土人』は『差別』なのか」として、次のように述べています。

 一方、曽野氏のコラムは次のように正反対の見解を示している。

 「私は父のことを『東京土人』とか、『東京原住民』とかよく書いている。私を含めてすべての人は、どこかの土人、原住民なのだが、それでどこが悪いのだろう。『沖縄の土人』というのは、蔑称だと思う蓮舫氏の方こそ、差別感の持ち主だと思われる」

 試みに手元の辞書で「土人」の意味を引くと、岩波国語辞典では「(1)土着の住民、土民(2)原始的生活をする、土着の人種」とある。また、広辞苑には「(1)その土地に生れ住む人。土着の人(2)未開の土着人。軽侮の意を含んで使われた(3)土でつくった人形。土人形。泥人形」と記されていた。

 どちらも(1)の意味なら何の問題もない。(2)の意味で使ったとすると確かに不適切だが、かといって直ちに「差別」に結びつけるのも無理があると感じる。だとすると、鶴保氏の言葉は本来、問題視されるようなものではないはずである。

 「相手が差別だと感じたならばそれは差別なのだ」という論調も見かけるが、そんなに恣意(しい)的に「差別」をつくっていいものか。差別とは、決して安易にもてあそんでいい言葉ではない。それこそ、安直な言葉狩りや言論弾圧を招きかねない危険な発想である。

 この「土人発言」問題をめぐっては、評論家の呉智英氏も「週刊ポスト」(11月18日号)のコラムで、こう主張していた。

 「私は三十年以上前から何の問題もないと主張してきた。事実、当時普通に使われていた言葉である」

 「土着という言葉を知らない無知な輩(やから)が『土に汚れた人』の意味だと『差別認定』して騒いでいるのだ」

産経新聞の今後に期待

 産経新聞はここで明らかに「土人」は差別語ではないという立場を示しています。

 しかし、この土人発言については、菅官房長官が10月19日の記者会見で、「警察官が不適切な発言を行ったことは大変残念だ」として、「これは許すまじきことなので、警察庁においてしっかり対応するという報告を受けている」と説明しています(10月19日付朝日新聞)。また、金田法務大臣も10月25日に行われた参院法務委員会で、「土人」という言葉は差別用語に当たるとの認識を示し、「大変残念で許すまじき言動」と答弁しています(10月25日付琉球新報)。

 産経新聞はこれまで過剰なまでに安倍政権を擁護してきました。しかし、この土人発言については明確に安倍政権と相容れない立場をとっています。いや、相容れないどころか、この記事は安倍政権に対する批判記事だとさえ言えるでしょう。

 もっとも、土人発言に対する態度は別として、政権に対して批判的な姿勢をとることは、メディアとして当然の姿です。産経新聞には今後も厳しい態度で安倍政権に臨んでいただきたいと思います。

 なお、曽野綾子氏の差別的な体質については、評論家の佐高信氏と哲学者の山崎行太郎氏が『曽野綾子大批判』(弊社刊)の中で徹底的に批判しています。ご一読いただければ幸いです。(YN)