水野和夫 このままでは賃金が4割減る

仮想通貨がなくなることはない

 1月下旬に巨額通貨が流出したコインチェックが買収されることになりました。金融庁は別の複数業者にも行政処分を出す方針であり、一部の業者は撤退することになります(4月4日 日経新聞)。しかし、これによって仮想通貨がなくなることはないと思います。仮想通貨は今後も一定の役割を果たしていくはずです。

 もっとも、仮想通貨は巷間言われているほど革命的なものでもありません。そもそも「通貨」と呼べるかどうかさえ疑わしいところがあります。ここでは弊誌4月号に掲載した、法政大学教授の水野和夫氏のインタビューを紹介します。全文は4月号をご覧ください。

金融緩和がもたらした仮想通貨バブル

―― 株式市場と同じようにバブル化しているのが仮想通貨です。これも安倍政権による異次元金融緩和と関係があるのでしょうか。

水野 仮想通貨に投資が集まるようになったのは、一つには、安倍政権の金融緩和によって円の信頼が失われたからです。そのため、円に代わる通貨として注目されるようになったのだと思います。

 もう一つは、実物投資の世界で投資が行き渡ってしまったことです。一般家庭では日常生活に必要なものは一通り揃っており、新たな需要は見込めません。これ以上実物に投資しても利益が得られないとなれば、お金はどうしても株式市場に流れてしまいます。

 とはいえ、株式投資によって利潤を得ることも簡単ではありません。各国の証券取引所は株式の高速取引化を進めており、1億分の1秒単位、10億分の1秒単位を競って取引ができるシステムを作り上げています。逆に言えば、それほど高速で取引を行わなければ、利潤を上げられなくなっているということです。

 このように、現在では実物投資でも株式投資でも利潤を得るのが難しくなっています。そうした中、新たな投資先として見出されたのが仮想通貨だったというわけです。

 もっとも、仮想通貨はとても「通貨」と呼べるような代物ではありません。あまりにも問題が多すぎます。たとえば、仮想通貨の一つであるビットコインは、発行枚数に上限があるため、通貨としての価値が維持されると言われていました。しかし、現実にはビットコインの価格は乱高下しています。これほど価格が安定しないようでは、通貨の役割の一つである価値尺度にはなりえません。

 また、ビットコインは、マイニング(採掘)と呼ばれる複雑な計算処理を通して新たな仮想通貨を獲得できる仕組みになっています。しかし、これはコンピュータ技術を競い合うものですから、結局のところ進歩主義にすぎず、特別新しい取り組みとは言えません。

 さらに、仮想通貨は取引参加者が相互に取引記録を監視しているため、不正を防ぐことができると言われていました。しかし、仮想通貨の一つである「NEM」は不正に送金され、外国の闇サイトで換金されたようです。もし、仮にロシアのマフィアや北朝鮮の軍隊などが関与していたとすれば、日本の警察は手も足も出ません。

 日銀の黒田総裁は仮想通貨について、「仮想通貨ではなく仮想資産と呼ぶべきだ」ということを言っていますが、資産は資産でも非常に質の悪い資産です。いま政府は東京や大阪などにカジノを作ろうとしていますが、実際にはすでに仮想通貨という名のカジノが出現していると言っていいでしょう。……

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