山崎行太郎 他人の受け売りを垂れ流す櫻井よしこ

なぜ櫻井よしこを批判するのか

── 山崎さんは『保守論壇亡国論』で、櫻井よしこ氏を厳しく批判されています。なぜ櫻井氏を批判する必要があるのか、改めて教えてください。

山崎 最初に強調しておきますが、私は櫻井氏の著作自体にはほとんど関心がありません。読む価値もないと思っています。それでも私が櫻井氏を批判するのは、彼女が安倍政権に非常に近く、彼らに大きな影響を与えているからです。

 櫻井氏が安倍総理に一方的にすり寄っているというのであれば、それはわかります。時の権力者にすり寄れば、独自の情報を入手できるなど、得られるものも少なくないでしょう。ところが、安倍総理も櫻井氏を上手く利用しようとしているのか、彼女にすり寄るような姿勢を見せています。

 それを端的に示しているのが、櫻井氏の『日本の覚悟』の「解説」を安倍総理が書いていることです。安倍総理はそこで、櫻井氏を保守派の重鎮であるかのように持ち上げ、絶賛しています。しかも、安倍総理は「ぶれない」とか「日本の国益」といった言葉を使ったり、中国脅威論を展開するなど、最近の保守論壇によく見られるような議論を行っています。つまり、安倍総理の言説は櫻井氏レベルだということであり、安倍政権の政治はいわば「櫻井よしこ的な政治」だということです。

 それ故、安倍政権を批判するためには、安倍総理の背後で黒衣のような役割を果たしている櫻井氏を批判する必要があります。安倍政権の政策の問題点を一つ一つ取り上げるだけでは、効果的ではありません。実際、TPPや集団的自衛権に対する批判は、全て空振りに終わりました。むしろ櫻井氏のような人物の実態を暴くことこそ、安倍政権に対する有効な批判になると思います。

── 櫻井氏の言説が優れていれば、安倍総理がその影響を受けていたとしても問題はないと思いますが、櫻井氏の言説のどこに問題があると考えていますか。

山崎 最大の問題は、櫻井氏の議論の多くが他の言論人の受け売りだということです。それは、彼女がいくら批判されてもまともに反論しようとせず、ひたすら同じような議論を繰り返していることからもわかります。

 もし自らデータを集め、自分の頭で物事を考え議論を行っているのであれば、何か厳しい批判を受けた場合、自分の議論が正しいことを証明するためにしっかりとした反論をするはずです。相手が正しいと思えば、自らの議論を修正することもあるでしょう。少なくともこれまでの議論をそのまま強引に進めることはありません。

 ところが他人の受け売りをしている場合は、たとえその議論が間違っていたとしても、最終的な責任は参照先の言論人にあるのであって自分にはないということで、何の痛みも感じません。これはエイズ報道やA級戦犯の靖国神社合祀問題についての議論など、櫻井氏に一貫して見られる傾向です。彼女は明らかに間違っているにも拘らず、批判されても無視を決め込み、誤魔化します。彼女の出世作である『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』を絶版にしているのが、その実例です。

 同じことは安倍総理にも言えます。例えば集団的自衛権問題などについて、いくら野党が批判しても、安倍総理は同じような答弁を繰り返すだけでした。あれはまさに受け売りの心理です。自分の頭で物事を考えていないから、間違った言説を無責任に垂れ流し、しかもそれに恥を感じないわけです。

『「南京事件」の探究』は研究書の名に値しない

── 櫻井氏の最近の議論にも他人の受け売りは見られますか。

山崎 最近話題になっている問題について言えば、南京事件をめぐる議論がそうです。櫻井氏は『週刊新潮』(2015年10月22日号)で、南京事件の記録がユネスコの世界記憶遺産に登録されたことを批判し、《「南京大虐殺」など存在しなかったことは、これまでの研究で明らかにされている。》と述べています。

 櫻井氏の言う「これまでの研究」とは、北村稔氏の『「南京事件」の探究』を指していると思われます。櫻井氏は『異形の大国 中国』などでも、南京事件が捏造であることを証明した本として、北村氏の著書を引用しています。

 もちろん北村氏の議論が正しければ、櫻井氏がどれほど北村氏の受け売りをしようが、ひとまず問題はありません。ところが、北村氏の『「南京事件」の探究』には看過できない問題があります。櫻井氏はそのことに全く気づいていません。……

以下全文は本誌2月号をご覧ください。