田村正勝 無利子百年国債を発行せよ!

(前略)

国土強靭化計画は「財政の崖」を招く

―― 安倍総理が消費増税を決断した背景には、円安によって輸出が持ち直したという判断が働いているようだ。

田村 確かに円安にはなったが、輸出量は伸びていない。現在の企業の儲けは為替差益によるものがほとんどだ。自動車は既に50%以上が、家電も40%以上が海外で生産されている。それゆえ、為替が安くなって輸出が伸び、その結果景気が良くなるということはあり得ない。むしろ輸入インフレによって国民の生活はさらに苦しくなるだろう。

 そもそも日本経済が輸出で伸びてきたというのは嘘だ。GDPに占める輸出額の割合は、輸出額が過去最高の85兆円であった2007年度でも16・6%にすぎない。それ以外のほとんどの年度が10%以下である。

 つまり、日本の経済成長の要因は、輸出ではなく内需にあるのだ。それゆえ、日本経済を立て直すためには内需を伸ばす必要がある。

―― 安倍総理は財政再建の重要性を訴えながらも、国土強靭化計画など、それに逆行するような政策も打ち出している。

田村 現在の日本の消費傾向からして、1兆円の公共投資から生まれる追加所得は最大1・4兆円ほどである。ここから上がる税収は、徴税漏れも勘案すると最大3000億円弱だ。したがって1兆円の公共投資は7000億円超の財政赤字を生む。

 安倍政権は10年間で200兆円もの公共投資をすると言っているが、それは新たに140兆円もの財政赤字をもたらすことになる。これよって国債は暴落、金利は高騰し、日本は「財政の崖」に立たされるだろう。

 東京オリンピックもまた財政赤字に拍車をかけるものだ。実際、モントリオールオリンピックやロンドンオリンピックも赤字をもたらした。長野オリンピックも長野県と白馬村に赤字をもたらし、それは現在でも尾を引いている。

 前回東京オリンピックが開催された翌年も、日本の景気は悪くなった。日本が初めて赤字国債を発行したのはこの時である。8年後のオリンピックが「祭りの後の後の祭り」にならないことを願うばかりだ。

 インフラについて言うならば、現在13万本の道路にかかる橋は、主要なものだけでも15万本ある。そのうち8%が築50年を経ているため補修が不可欠である。さらに上水道の40%、下水道の19%も20年後には限界に達する。この補修費用だけで財政はパンクしてしまう。

 現時点においてもこのような危機的な状況にあるのに、ここに新たに国土強靭化インフラを作るなどナンセンスである。

無利子100年国債を発行せよ

―― 膨れ上がる借金を放置しているわけにはいかない。財政を健全化するためにはどうすればよいか。

田村 私は10年ほど前から「無利子100年国債」の発行を提唱している。これにより、普通国債と新規発行国債、そして利払い費を全て数年のうちに借り換える。そうすれば、100年後に700~800兆円返せばよいことになる。

 そのためには毎年7~8兆円積んでおけばよい。現在の国債費は毎年22兆円以上になっているため、差額の14~15兆円を社会保障に回すことができる。これならば増税も必要ない。

 とはいえ、100年後に耳を揃えて返すので無利子国債を買ってくださいと言っても、誰も買わないだろう。そこで、これを買わせるために相続税と贈与税の免除という特典をつける必要がある。

 これは富裕層にとっては魅力的なものだ。現在、富裕層の預貯金は835兆円にも上るが、銀行に預けても大した利息はつかない。彼らにとっては相続税と贈与税の免除の方がはるかに有利だろう。それでもこの国債にお金が回らないようであれば、相続税や贈与税の累進税率の上昇率を急カーブにすればよい。これは過激なやり方ではあるが、これ以外に方法はない。

 無利子国債に対する批判も多いが、これは決して私だけが主張しているものではない。イギリスでは既に1700年代に永久国債(コンソル公債)が発行されている。これは利息は払うが元金は返さないというものだ。イギリス財務省は現在、ロンドンオリンピックの赤字問題もあって、再び永久国債と50年国債の発行を検討している。

 また、フランスでも、相続税免除の無利子国債が1952年と1958年に発行されている。無利子国債は決して夢物語ではない。経済史をきちんと勉強していればわかることだ。……

以下全文は本誌11月号をご覧ください。