中国に対する警戒感を強めるアメリカ
―― 六月七、八日に行われた米中首脳会談は、米中関係にどのような影響を与えると考えるか。
奥山 今回の会談によって米中関係が大きく変化するということはない。個別の案件について何らかの手打ちがなされた可能性はあるが、今後も米中の対立関係は継続していくだろう。
首脳会談の内容としては、サイバー攻撃について議論されたことが注目に値する。しかし、その直後、米国家安全保障局(NSA)の元下請けの職員であるエドワード・スノーデン氏が「NSAは中国など世界各国をハッキングしていた」と暴露したため、アメリカは中国に「我々も被害者だ」という口実を与えることになってしまった。この事件は、ブラッドリー・マニング米陸軍上等兵がウィキリークスに米軍機密情報をリークした事件よりも世界に大きなインパクトを与えるものだ。
習近平主席は会談に際して「新型の大国関係」の構築を掲げ、「太平洋には米中という二つの大国を収めるに足りる十分な空間が存在する」と述べるなど、日本を無視してG2を強く意識した発言を行っていたが、アメリカがその提案に乗るとは考えにくい。
アメリカの中国観を知る上で役に立つのが、アメリカの戦略家であり国防総省とも近いエドワード・ルトワックの著書『自滅する中国』(芙蓉書房出版より近日刊行予定)だ。ルトワックはここで、中国の対外戦略がいかに自滅的なものであるかを論じている。
ある国の急速な台頭は、たとえその国が侵略的な意図など持っていなくとも、周辺国に脅威を与える。そのため、周辺国は、それまでお互いに関係が深いわけでもなく、場合によっては敵対関係にあったとしても、この新しい脅威に対処する方法を探るために協力するようになる。その結果、安全保障の取り決めを公的に結ばずとも、自然に非公式な形で同盟関係が形成されていく。
たとえば、日本はベトナムに対して資金援助を行っており、ベトナムはそれによりロシアから潜水艦を購入している。この潜水艦と全く同じ型のものをインド海軍が使用しているため、インドはベトナムに対して、乗組員を自国の訓練養成所で訓練させることを提案している。このように、日本とインド、ベトナムは三国間の安全保障協定を結んでいるわけではないが、中国に対抗するための協力関係が自然と形成されている。
もとより、尖閣諸島や南沙諸島などに対してあれだけ独善的な態度をとっていれば、周辺国が警戒感を強めて団結するのも当然だ。人民解放軍による火器レーダー照射(ロックオン)事件は記憶に新しいが、中国海軍は過去に、アメリカやロシア、インドなど世界の主要国の海軍に対してもレーダー照射を行ったことがあったそうで、軍事関係者の間では有名な話だったようである。
このように、中国は自らの首を絞めるような政策を行っているため、これ以上スムーズに台頭することは困難であろうとルトワックは予言している。実際、ゴリゴリの親中派であったキッシンジャーでさえ、最近では中国に対して警戒感を示すようになっている。
なぜ中国は自滅するのか
―― なぜ中国は自らの首を絞めるような独善的な政策を行っているのか。
奥山 それにはいくつかの理由がある。第一に、中国が歴史的に他の大国と付き合った経験がないからだ。中国はこれまで、中国大陸において唯一の大国として君臨し続けてきた。それゆえ、「対等」ということが理解できず、他国に対して「上下関係」で接してしまう。それは、中国の皇帝が外国の使節を臣下のように扱っていた歴史からもわかるだろう。
しかし、現在の主権国家同士は、建前としてはお互い対等な関係にある。それゆえ、中国が今やっているようにあたかも臣下に対するかのような態度で接すれば、他国との間に摩擦を生んでしまうのも無理はない。
第二に、中国が外交政策の前提として「外国も自分と同じように現実的かつ日和見主義的である」という考えを持っているためだ。中国は孫子の時代から陰謀を廻らし騙し合いを行ってきた。彼らの外交政策では裏切りや騙しが最低限のマナーと言われるほどだ。
しかし、これは中国という同一文化内でしか通用しないものだ。孫子の『兵法』に出てくる主役級の人物も全て漢民族である。漢民族同士であればそれでもいいかもしれないが、それを異文化の外国に適用すれば、周辺国が不信感を抱くのも当然と言える。
もっとも、中国も当初は「平和的な台頭」を掲げて自制的な行動をとっていた。しかし、彼らの行動は二〇〇五年頃から変化し始め、二〇〇八年の金融危機の勃発以降、露骨に独善的なものとなった。共産党の幹部や人民解放軍の将校などといった支配層が「経済の総合力で中国の超大国への台頭が早まる」と判断したためであろう。
実際、それまでよく北京を訪れていた人たちは、中国がこれまでと異なり急に横柄な態度をとるようになったことに驚かされたという。……
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