本誌編集部 東京オリンピックから「名誉ある撤退」を  

東京五輪の雲行きが怪しくなってきた。多くの国民が東京五輪に関心があると言いながらも、一方では新国立競技場建設などをめぐる混乱のため白けた空気が漂い始めている。最大の問題は、未だに福島原発事故が収束していないことだろう。果たして今の日本にオリンピックを開催している余裕などあるのか。

福島は本当に「アンダーコントロール」できているのか

 「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」。2013年にアルゼンチンで開催されたIOC総会のプレゼンテーションにて、安倍総理はこのように高らかに宣言した。この「統御(under control)」発言が、2020年オリンピック・パラリンピックの東京開催をもたらしたと言っても決して言い過ぎではないだろう。

 しかし、このアンダーコントロール発言、果たしてどこまで信用できるだろうか。3・11以降、学界と原子力業界の癒着が知られるようになり、たとえ物理学者だとしてもその発言をそのまま信用することは困難になった。癒着は政界にも及んでおり、政府の発言を鵜呑みにすることは危険である。

 とりわけ安倍総理の場合はそうである。もともと安倍政権は2012年の総選挙で「TPP断固反対」を掲げて勝利し、誕生した政権である。ところが今では何事もなかったかのごとく、TPP成立に向けて突き進んでいる。

 安倍政権を批判する声はマスコミや政界などでも大きくなってはいるが、東京五輪と福島原発事故を結びつけた議論はあまり聞かれない。それは、一つには国民の多くが東京五輪に関心を持っているからだろう。今年6月に行われた内閣府の世論調査では、東京五輪に「関心がある」と答えた人が81・9%にも及んだ。

 実施主体が内閣府であり、しかも新国立競技場建設計画が白紙撤回される前に行われた世論調査が、本当に現在の国民の声を反映しているのかという問題はある。しかしひとまずそれを脇に置けば、これほど多くの国民が待ち望むオリンピックに対して、水を差すと見なされるような発言を躊躇するのは無理もないことなのかもしれない。

 そうした中、8月4日に行われた参議院平和安全法制特別委員会で、民主党の櫻井充議員が安倍総理に対してIOC総会での発言の真意を問い質した。櫻井議員に話を聞いた。

安倍総理がIOC総会でついた嘘

―― 櫻井議員は安倍総理のIOC総会での発言、すなわち「東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」という発言は、事実と全く異なると批判されています。

櫻井 私が国会でこの問題を取り上げたのは、安倍総理は自分がやりたいことを推し進めていくためには平気でウソをつく人だということを国民の皆さんに知っていただきたかったからです。国際社会に向かって公然とウソをつくような人が総理であることが、果たしてわが国の国益につながるでしょうか。

 安倍総理がIOC総会で行ったスピーチの原文を見ると、“It has never done and will never do any damage to Tokyo.”となっています。前半部分は現在完了形ですから、ある過去の時点から現在に至るまでずっと、東京には何も悪い影響を及ぼしていないという意味になります。

 それではこれまで東京には何の影響もなかったのかと言うと、そうではありません。平成23年(2011)3月23日に、東京の金町浄水場の水道水から100ベクレルを超える放射性ヨウ素が検出されました。これは幼児による摂取を控えなければならない値です。

 また、廃棄物焼却施設における排ガス・ばいじん等の測定実績を見ると、東京都は平成24年度に11100ベクレルを記録しています。これは8000ベクレルを超えているため、指定廃棄物に指定されます。さらに環境省の説明によると、東京には指定廃棄物に指定された焼却灰が982トン存在しています。

 これらを見れば、福島原発事故の影響が東京にまで及んでいたことは明らかです。実際、望月環境大臣も塩崎厚生労働大臣もこうした点で影響があったということを認めています。

 そこで、私は安倍総理に「東京にも福島原発事故の影響があったのではないか。IOC総会での発言は事実と異なるのではないか」と質問しました。すると、安倍総理は「私があの時説明したのは、福島第一原発の汚染水による影響が東京に及ぶことはないということだ。あくまでも汚染水について述べたのであり、その意味で間違ったことは言っていない」といった趣旨の答弁をしました。

 しかし、IOC総会の発言のどこを見ても、汚染水とは一言も述べていません。“never~any”は全否定ですから、安倍総理は汚染水だけでなく全ての影響について否定したはずです。安倍総理の答弁はあまりにも無理があると言わざるを得ません。……

以下全文は本誌9月号をご覧ください。