水野和夫 政府は2%の物価上昇を望んでいない

日銀の政策は完全に行き詰まった

 日銀が長期金利の目標を柔軟化させることを決定しました。また、彼らは物価見通しを下方修正し、2%の物価目標も2020年度までには達成が困難との見解を示しました(8月1日 時事通信)。日銀の政策は完全に行き詰まっています。彼らは何度も物価目標達成時期を先延ばしにしていますが、そもそも本当に2%の物価上昇を達成しようとしているのでしょうか。

 ここでは弊誌4月号に掲載した、法政大学教授の水野和夫氏のインタビューを紹介します。全文は4月号をご覧ください。

なぜ黒田日銀総裁は再任されたのか

―― 4月に任期切れとなる黒田東彦日銀総裁の続投が固まりました。安倍政権が黒田氏を再任させる狙いはどこにあると思いますか。

水野 それは端的に言って株価対策です。黒田氏はこれまで異次元の金融緩和を続け、金利も低く抑えてきました。その結果、金余りの状況が生まれ、株価がどんどん高くなっていきました。

 この間、安倍政権の支持率は株価と連動し、株価とともに上昇していきました。それゆえ、安倍政権は支持率を維持するため、なんとしても金融緩和を続けなければならないと考えたはずです。おそらく彼らは本音では、目標として掲げてきた2%の物価上昇も望んでいないと思います。もし2%の物価上昇を達成してしまえば、金融緩和をやめ、金利も上げていかなければなりません。そうなると、アメリカのように株価が下がり、支持率も下落してしまうからです。

 安倍首相は今年9月に予定されている自民党総裁選に勝てば、あと3年間首相を続けることができます。また、黒田氏が日銀総裁に再任されると、任期は5年です。つまり、「出口政策を考えていない」と明言している黒田氏を続投させれば、安倍首相の在任中はずっと金融緩和を継続させることができるのです。

 おそらく黒田氏の続投は一昨年から決まっていたと思います。このとき、日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、それまで年間80兆円程度だった国債の買い入れを50兆円にまで縮小しました。もし80兆円のペースで国債購入を続ければ、購入できる国債がなくなり、黒田氏の任期途中で玉が尽きる可能性がありました。しかし、年間50兆円程度であれば、黒田氏の任期のうちは国債購入を継続することができます。黒田氏としては、自分の在任中に打つ手がなくなるような恥ずかしい真似は避けたかったのでしょう。

 これに対して、岩田規久男副総裁は国債買い入れの縮小に反対したと伝えられています。岩田氏は年齢的にも副総裁に再任される可能性は高くありませんでした。そのため、自分が副総裁のうちは80兆円の国債購入を続けたかったのだと思います。

 他方、日銀のプロパーの人たちも黒田氏とは別の思惑から国債買い入れの縮小を後押ししていました。いまのような金融緩和を続ければ、取り返しのつかない事態になることは明らかだからです。こうした別々の思惑が見事に合致し、国債購入は縮小されることになったのだと思います。……

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