マイナス金利政策でもデフレは脱却できない

ヨーロッパのマイナス金利政策は上手くいっていない

 日銀が追加的な金融緩和策としてマイナス金利政策の導入を決定しました。これにより日経平均は一時600円近く上昇しました。

 マイナス金利を導入すれば、銀行が当座預金を減らして投資や貸し出しを増やすため、実体経済が刺激されると言われています。しかし、そもそも投資先や貸し出し先がなければ、いくらマイナス金利を導入しても、実体経済にまでお金が回ることはありません。実際、ヨーロッパはマイナス金利政策を導入していますが、景気が回復しているとは言えません。今回のマイナス金利によって本当に日本経済が回復するのか、かなり疑わしいと言わざるを得ません。

 ここでは、弊誌2014年12月号に掲載した、水野和夫・日本大学教授のインタビュー記事を紹介したいと思います。2年前の記事ですが、内容は全く古びていません。(YN)

追加緩和が物価上昇につながらない理由

―― 水野さんは『資本主義の終焉と歴史の危機』などの著書で、量的緩和では物価を上昇させることはできないと主張されています。なぜ量的緩和は物価上昇につながらないのでしょうか。

水野 日本やアメリカなどの先進国では、生産が過剰に行われています。それは、例えば日本で見られる空き家や食品ロス(まだ食べられるのに捨てられている食べ物)などについて考えればわかると思います。

 物が過剰に生産されれば、当然物の値段は下がります。また、これ以上投資の余地がないほどに実物投資が行き渡れば、いくら実物に投資しても高い利潤を得ることはできません。

 先進国は既に1970年代からこうした状態にありました。このような問題を解決するためには、新たなマーケットを開拓するしかありません。

 ところが、1975年にアメリカがベトナム戦争に敗れたために、先進国が新たに市場を拡大することは困難になりました。そこでアメリカが考え出したのが、「地理的・物的空間(実物経済)」に代わる新たな空間を創出することです。それが「電子・金融空間」です。

 「電子・金融空間」とは、ITと金融自由化が結合して作られた空間のことです。これにより、資本は瞬時にして国境を越え、キャピタル・ゲインを稼ぎ出すことができるようになりました。

 このように、先進国では既に「地理的・物的空間」が飽和しているため、いくら量的緩和を行っても、お金は「地理的・物的空間」ではなく「電子・金融空間」に流れてしまいます。それ故、株価は上がりますが、物価上昇にはつながらないのです。

 また、グローバリゼーションの現代では、お金が国内に留まるとは限りません。量的緩和によって物価が上昇するというのは、お金が国境を超えて自由に動かない場合にしか当てはまりません。(以下略)