甘利大臣辞任によって得をするのは誰か

参議院本会議から記者会見までの間に何があったのか

 1月28日、甘利明経済再生担当相が記者会見の場で閣僚辞任を表明しました。しかし、同日の参議院本会議で辞任を否定していたことを考えると、腑に落ちないものがあります。

 1月28日付の朝日新聞によると、甘利大臣自身は数日前から辞任を覚悟し、安倍総理に対して「私の判断を尊重して欲しい」と伝えていました。それに対して、安倍総理は「たとえ内閣支持率が10%下がっても、続けてもらいたい」と励ましたようです。甘利大臣が参議院本会議で辞任を否定したのは、安倍総理の支えがあったからでしょう。

 それにも拘らず辞任したということは、参議院本会議から記者会見までの間に、やはり辞任しなければならないような事情が生じたのかもしれません。甘利大臣が行っていた第三者による調査によって新たな事実が発覚したとか、あるいは官邸に新たな情報が入り、官邸が庇い切れないと判断した可能性もあるでしょう。

巻き返しを図る財務省

 甘利大臣辞任により影響を受けるのは、やはりTPPです。アメリカ国務省のトナー副報道官が同日、「TPPは、一個人というよりも、より広範なものであり、今回の辞任によって署名式が遅れることはない」と明言しました(1月29日FNNニュース)。しかし、本当に影響がないのであれば、いちいちコメントする必要はありません。これはつまり、アメリカ政府もTPPへの影響を心配しているということです。また、たとえ署名式に影響がなくとも、国会の承認に影響が出る可能性があります。

 それ故、今回の騒動は、TPPに一貫して反対してきた中国にとっては好都合な話です。また、アメリカ国内でTPPに反対しているグループにとっても朗報でしょう。もちろんこれはその他の参加国にも言えることです。

 日本の国内政治について言えば、これまで経産省を重視してきた安倍政権の方針に影響を与える可能性があります。特に、財務省は10%への消費税率引き上げの再延長まで囁かれている現状にかなり不満を抱いていると思います。一部では、安倍政権がこのまま財務省軽視を続ければ、財務省が傘下の国税庁を使って政治家に圧力をかけるのではないか、といった声まであります。その意味で、財務省にとっては巻き返しを図るチャンスが到来したと言えます。

 今回の件は、既に東京地検特捜部も動き出しているため(1月31日付読売新聞)、このまま終わるとは思えません。この事態を乗り切ることができるかどうかが、安倍政権の今後にとって極めて重要になります。(YN)