オバマ大統領を怒らせた埋め合わせ
安倍首相は12月26、27日にハワイを訪れ、オバマ大統領と共に真珠湾を訪問することを発表しました。安倍首相は「犠牲者の慰霊のための訪問だ。二度と惨禍を繰り返してはならない」と述べ、「未来に向けて同盟強化の意義を世界に発信する機会にしたい」と強調しました(12月5日付共同通信)。
しかし、安倍首相は、オバマ大統領の広島訪問に先立って行われた記者会見では、真珠湾への訪問について「現在、計画はない」と述べていました(5月26日付共同通信)。先月リマでオバマ大統領と立ち話した際に真珠湾訪問について合意したということですが、なぜこの半年の間に方針を転換したのでしょうか。
おそらくこれにはトランプ次期大統領との会談が関係していると思います。これについて、オバマ政権は事前に日本政府に対して、「トランプ氏はまだ大統領ではない。前例のないことはしないでほしい」と強い異議を伝えていました。日本側は、会談は非公式で、トランプ氏が提案していた夕食会は見送るとして理解を求めましたが、オバマ政権は納得しませんでした。その結果、ペルーで開催しようと調整していた日米首脳会談は実現せず、立ち話にとどまってしまったということです(12月5日付東京新聞)。
現職の大統領を蔑ろにして次期大統領と会談するなど、外交以前に、人間としての常識に反しています。オバマ大統領が怒るのも無理はありません。安倍首相はあまりにもオバマ大統領の怒りが大きかったことから、その埋め合わせとして、真珠湾訪問を決断した可能性があります。
「戦後レジーム」を強固にする安倍首相
とはいえ、安倍首相は内心では真珠湾訪問に乗り気ではないと思います。安倍首相が真珠湾で公式に謝罪することはないと思いますが、真珠湾を訪問すること自体、アメリカ側への謝罪という意味を持ちます。これは安倍首相が打破しようとしていたはずの「戦後レジーム」そのものです。
そもそも、安倍首相はオバマ大統領が広島を訪問することについても決して前向きではなかったはずです。広島平和記念公園にある慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」とあります。これもまた、安倍首相が嫌悪する「戦後レジーム」そのものです。
それにもかかわらず、なぜ安倍政権はオバマ大統領の広島訪問をアレンジしたのでしょうか。それは安倍首相の意向というよりも、創価学会の意向だったと見たほうがいいでしょう。ここでは、弊誌7月号に掲載した、作家の佐藤優氏と哲学者の山崎行太郎氏の対談を紹介したいと思います。
オバマ広島訪問は創価学会対策だ
山崎 オバマ大統領の広島訪問も、ある種のヒューマニズムですよね。僕は昔から広島が好きになれないんです。広島平和記念公園にある慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」とあります。しかし、誰が誰に「過ちは繰り返しませぬから」と言っているのか。そもそも「過ち」とは一体何なのか。これも結局のところ綺麗事だと思います。
安倍政権も内心ではこの碑文に批判的なはずです。そもそも彼らは原発を推進しているわけですからね。ところが、安倍政権はオバマ大統領の広島訪問を歓迎しているんだから、矛盾していると言わざるを得ません。
佐藤 今回のオバマ広島訪問は基本的には公明党の路線に合致しています。自民党単独政権だったら絶対にやりません。自公連立政権じゃなければやらない話です。創価学会は以前から核廃絶に熱心で、創価学会の戸田城聖二代会長は1957年に原水爆禁止宣言を発表しています。池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長も2009年にオバマがプラハ演説を行った直後、核廃絶を提言しています。
実はこのオバマ広島訪問を実現するために熱心に動いたのが、近く外務事務次官になる杉山晋輔氏です。杉山氏は今後、自分が安定的な形で事務次官になって生き残るために、公明党の力が必要だと考えた。それで、公明党は安保法制によって厳しい立場に置かれることになったけど、核廃絶という方向で動けば、公明党の関心を引くことができると計算したわけです。杉山氏は政治動物ですから、自分が生き残るための知恵はどんどん出てくるんですよ。
―― ウィキリークスが暴露した文書によると、2009年に当時の藪中三十二外務事務次官は、オバマ大統領の広島訪問は時期尚早だとアメリカ側に伝えていました。外務省の立場は変わったということですか。
佐藤 外務省は変化したんです。その変化は何かと言えば、杉山氏が外務審議官になって、従来の外務省の路線よりも公明党との安定的関係を重視するようになったことです。
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