来たる日ロ首脳会談で北方領土問題は進展するか

なぜ領土交渉への期待値が上がったのか

 日ロ首脳会談が目前に迫っています。それに先立ち、読売新聞がプーチン大統領に対して約1時間20分にわたってインタビューを行いました(12月13日付読売新聞)。プーチン大統領はそこで日ソ共同宣言に言及し、次のように述べています。

共同宣言には、両国が履行すべき、平和条約の基礎となるルールが書かれている。宣言を注意深く読むと、まず平和条約を締結し、その後、宣言が発効し、二つの島が日本に引き渡されると書いてある。どのような条件の下で引き渡されるのか、どちらの主権下に置かれるかは書かれていない。

 これはプーチン大統領が従来から主張している内容であり、特に大きな変化があるわけではありません。このようにプーチン大統領の主張は一貫しており、ましてや日本に大きく譲歩する素振りを見せたわけでもないのですが、なぜか日本国内ではつい最近まで、あたかも来たる日ロ首脳会談で領土問題が解決するかのような期待感が高まっていました。

 それは一つには、今年の5月にソチで安倍首相がプーチン大統領と会談を行い、会談後、「平和条約については、いままでの停滞を打破する、突破口を開くという手応えを得ることができたと思う。これはプーチン大統領も同じ認識だと思います。この問題は2人で解決していこう、未来志向の日露関係を構築していく中で解決していこう。その考えで一致を致しました。今までの発想にとらわれない新しいアプローチで交渉を進めていくということになります」と述べたことが大きいでしょう(5月7日付産経ニュース)。

 また、安倍首相は9月にウラジオストクでプーチン大統領と会談した際にも、会談後に、北方領土について「2人だけでかなり突っ込んだ議論ができた。新しいアプローチに基づく交渉を今後、具体的に進めていく道筋がみえてきた」と語っています(9月3日付日経新聞)。首相がこれほど自信を示せば、メディアや世論が期待するのも無理はありません。

「新しいアプローチ」は新しくない

 ロシア側の姿勢に変化がないにもかかわらず領土問題が解決するとすれば、それは日本側の姿勢が変化した場合に限られます。ここで問題になるのが、安倍首相が強調している「新しいアプローチ」です。

 それでは、安倍首相の「新しいアプローチ」とは一体何でしょうか。安倍首相は10月3日の衆議院予算委員会で、「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する。一言一句つけ加える考え方はない」と述べています。これは1993年に細川首相とエリツィン大統領によって署名された東京宣言の内容です。

 しかし、日本外務省のこれまでも事あるごとに東京宣言を強調してきました。ということは、安倍首相は「新しいアプローチ」と言いながらも、実はアプローチに特に大きな変化はなかったということです。実際、プーチン大統領は11月にリマで安倍首相と会談を行い、その翌日に記者会見を行った際、記者から「あなたはどのようなアプローチが新しいと考えますか。あなたにとって古いアプローチとは何ですか」と問われ、「何が古いアプローチで何が新しいのか、私はわからない」と答えています(鈴木貴子衆議院議員のブログより)。

 プーチン大統領の主張は従来と変わらず、日本側のアプローチも従来と変わらないわけですから、領土交渉が動くはずがありません。安倍首相がソチやウラジオストクの会談で領土問題について手応えを感じたのは、端的に言って勘違いです。勝手に勘違いして国民に期待させ、そしてここに来て領土問題が動かないということがわかって焦っているというのが現状でしょう。

 もっとも、安倍首相が前のめりになるのは無理もありません。このタイミングを逃せば、北方領土は永久に返ってこないからです。安倍首相の領土交渉のやり方には疑問も感じますが、それでも安倍首相には山口の首脳会談で何とか次につながるようなきっかけをつかんでほしいと思います。

 なお、弊誌12月号では北方領土問題について、元外務省主任分析官の佐藤優氏、新党大地代表の鈴木宗男氏、元外務省欧亜局長の東郷和彦氏にお話をうかがいました。ご一読いただければ幸いです。(YN)