北朝鮮の実力を見誤った日本
北朝鮮が再びミサイルを発射しました。日本は北朝鮮を強く憎むあまり、北朝鮮の実力を正確に捉えることができていないように思います。もちろん日本人の拉致は許されざることであり、強く非難し、必ず解決しなければなりません。しかし、経済制裁や強硬な姿勢を示すだけでは拉致問題を解決できないということは、これまでの経緯からも明らかです。拉致問題を解決するためにも、我々は北朝鮮への対応をもう一度考える必要があります。
ここでは、弊誌8月号に掲載した、拓殖大大学院特任教授の武貞秀士氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は8月号をご覧ください。
北朝鮮を過小評価してきたツケ
── 7月4日に北朝鮮が行ったミサイル発射実験をどう分析していますか。
武貞 金正恩委員長は「新年の辞」で、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の準備が最終段階に入った」と述べていました。そして今回、北朝鮮がICBMの発射実験に成功したことは、彼らがワシントンやニューヨークを攻撃できるだけの核戦力を確保しつつあるという現実を、世界に示す結果となった。これは大きな転換点となるでしょう。文在寅政権は在韓米軍に配備したTHAADの本格運用の延期を要請しています。ミサイルの脅威に対処する日米韓の協力体制は後手に回っています。北朝鮮の力を低く見てきたツケがついに回ってきました。
ミサイル発射のわずか数時間後に、アメリカの太平洋軍は「ミサイルはICBMではなく、中距離弾道ミサイルだ」と発表しました。判断のタイミングが早すぎます。5月14日に30分飛翔したミサイルは5000キロくらいの射程があったのです。今回、3割増の40分飛翔した火星14型は、射程5500キロ以上という長距離弾道ミサイルの範疇にはいったことは明白です。「中距離弾道ミサイルだ」という発言はデータに基づいた分析ではなかったでしょう。
これまでトランプ政権は、北朝鮮がアメリカ本土まで届くICBMの発射実験をしたら座視しないというメッセージを発してきました。北朝鮮がICBMの発射をして、米国が傍観していたとなれば、アメリカ国民や国際社会からの批判を浴びる結果になるので、「中距離だ」と言わざるを得なかった。ティラーソン国務長官が「ICBMが発射された」という認識を示したのは、翌日になってからです。
一方、ロシアは7月4日に発射されたミサイルが中距離弾道ミサイルだったと一貫して主張しています。アメリカとは逆に、北朝鮮に対する厳しい制裁をすべきではないと主張するための伏線でしょう。
問題は、アメリカも日本も国際社会も、北朝鮮の力を過小評価してきたことです。「北朝鮮のような貧しい国が核兵器を作れるはずがない」というのが、アメリカの一貫した見方だったのです。すでに1991年頃から北朝鮮の核開発疑惑が持ち上がり、核開発を疑うような関連部品の輸入をしている事実が明らかになっていました。こうした中で、1993年から米朝協議が始まり、翌94年10月21日には「米朝枠組み合意」が成立しました。その時点でもなお、アメリカは北朝鮮の能力を過小評価していました。「核兵器を作っているかもしれないが、まがい物しかできない。彼らに核兵器の戦略があるはずがない」と見ていたのです。
アメリカがそのように考えたのは、「北朝鮮の体制は極めて脆弱であり、それを維持することはできない」と信じていたからです。日本人のメディアにもそうした見方は広がっていました。1994年7月8日に金日成が死去した際、「北朝鮮は内乱になる」と言った日本の記者もいます。北朝鮮の体制はいずれ崩壊するので、彼らの核兵器開発を心配する必要はないという理屈が罷り通ってきたのです。
北朝鮮崩壊論は、ずっと続きました。朴槿恵前大統領の友人で、娘の不正入学に関わったとして業務妨害罪などで起訴された崔順実被告は、「北朝鮮の体制は2016年12月までに崩壊する」と語っていました。「神のお告げだ」というのです。朴槿恵前大統領もそれを信じていたと言われています。日本でも「2016年中に北朝鮮は崩壊する」との話が拡散し、拉致問題をめぐる北朝鮮との対話への反対の声が大きかったのを覚えています。……