私企業に「水」が奪われる!─水道民営化の罠─

私企業に「水」が奪われる!

 3月7日、安倍内閣は水道法改正案を閣議決定しました。麻生太郎副総理兼財務相が「水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものをすべて、民営化します」(2013年4月19日、米戦略国際問題研究所CSIS講演より)と語った通り、水道法改正法案は水道民営化に道を開くものだと思います。

 実際、改正案では「地方公共団体が、水道事業者等としての位置付けを維持しつつ、厚生労働大臣等の許可を受けて、水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組みを導入する。」とされています。水道の運営権を民間事業者に委ねるということです。

 しかし国民の生命と生活を支える社会的インフラをビジネスの対象として民営化すべきではありません。故中川昭一元財務相は『朝日新聞』(2009年4月28日)のインタビューで、次のように述べていました。

 水のビジネスは、最終的に安全保障の問題だと思っています。「もうからないから、やめて帰っちゃえ」といわれたら、困るわけです。電気やガスとも違う。水は国民の生命であり、財産であり、採算性だけでやるものではない。

 安倍政権は水道民営化を目指しているようですが、仮に民間企業の水道ビジネスが始まった場合、我々国民の生命と生活は脅かされることになります。

 ここでは、本誌2014年7月号に掲載したIWJ記者・佐々木隼也氏のインタビュー「私企業に「水」が奪われる!─水道民営化の罠─」を紹介します。(YS)

雨水にも料金を課されたボリビア

── 水道民営化は各地で失敗に終わっています。

佐々木 民営化により効率が上がり、サービスも向上し、料金も低下すると喧伝されてきました。しかし、そもそも民営化とは、公益セクターに市場原理を導入することです。世界中の民営化した民間企業を見ると、例えば水道管が老朽化し、その整備をしなければならない場合、自社の資本を投入することはほとんどなく、銀行からの貸し付けを受けたり、投資物件として売り出して資金を工面したりしています。つまり、事業を投資として成り立たせ、そこで利潤を得ようとしているのです。結局、水道料金を上げるか、コストを削減しようとするのです。コスト削減のため、更新すべき施設をきちんと更新しなかったり、必要な人員を削減したりしています。その結果、サービスの悪化を招きます。経営が悪化した場合に、民間の水道会社が追加の補助金を申請するといったことも、世界中で起こっているのです。

 世界の水道市場では、ウォーターバロン(水男爵)とも呼ばれるフランスのヴェオリア、スエズ、イギリスのテムズの3社が独占的な立場にありますが、アメリカのベクテルなども各地で水道事業に参入しています。例えば、フィリピンのマニラでは、1997年にアメリカのベクテルや三菱商事が参入する形で水道が民営化されました。しかし、結局水道料金は4~5倍に跳ね上がりました。水道メーターの設置料4000ペソを払えない人は、水道の使用を禁止されました。しかも、他人に水を与えたり、分けたりすることも禁止するなど、かなり強硬なことが行われました。

 ボリビアは「水紛争」で有名ですが、1999年に同国のコチャバンバ市で水道事業がベクテルの子会社にコンセッション方式で民営化されました。ダムの建設が必要だという理由で上がり始めた水道料金は、やがて際限なく上がっていき、月給100ドルの家庭に月20ドルの水道料金が請求されるというような事態に陥りました。

 さらにベクテルは、雨水の利用にまで料金の支払いを要求するようになりました。契約上、天から降る水の利用権もベクテル側にあるとされたのです。これに市民の反発が高まり、ストライキや暴動に発展、死者まで出す惨事に至りました。これが「コチャバンバ水紛争」です。

 ついにベクテルは折れて、撤退を表明しました。ところが、ISDを利用してベクテルはボリビア政府に対して2500万ドルの損害賠償を要求したのです。未だにその決着は着いていません。

── ウォーターバロンは、すでに日本にも進出しています。

佐々木 ヴェオリアは2006年に広島県と埼玉県で下水道の維持管理の包括的契約を獲得、2007年には千葉県で下水道施設、さらに福岡県と熊本県でも上水道施設を運営しています。2012年には愛媛県松山市の浄水場運転業務を受託しました。

 この間、日本でも世界の市場に打ってでようという動きがありました。もともと、日本には極めて高い「膜ろ過」技術などがありますが、それだけでは十分ではありません。施設の設計・建設から運転維持、整備などをパッケージングする必要があります。そこで、2000年に三菱商事と日本ヘルス工業の共同出資による水事業会社としてジャパンウォーターが設立され、運営をパッケージングして世界市場に進出しようという構想が動き始めたのです。そのために、まず国内の民営化を進めてノウハウを蓄積することが求められました。ところが、逆にヴェオリアの参入という黒船ショックを招くことになったのです。……