丹羽宇一郎 中国の連邦制移行は避けられない

安倍政権が態度を変えた理由

 1月10日、安倍首相は自民党の二階俊博氏や公明党の井上義久氏と面会し、中国が提唱する経済圏構想「一帯一路」に関し、協力する姿勢を示しました(1月10日 産経ニュース)。安倍首相がここに来て態度を変えたのは、おそらくアメリカが原因です。安倍首相はトランプ大統領とやり取りする中で、トランプ政権が一体一路構想やAIIBに関与する可能性があると感じとり、はしごを外されるのを嫌がったのでしょう。

 ここでは、弊誌2018年1月号に掲載した、元中国大使の丹羽宇一郎氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は1月号をご覧ください。

中国は連邦制の民主国家に移行していくしかない

── わが国は、台頭する中国とどのような関係を築くべきですか。

丹羽 日本人の目から見れば、南シナ海、尖閣諸島で領有権を主張する中国の姿勢は非常に傲慢なものに映ります。日本やアメリカだけではなく、国際社会の多くの国が、中国の行動を「力による現状変更」だととらえて、問題視しています。

 しかし、私たちは、習近平氏が2013年3月の主席就任演説で語った「中華民族の夢」の意味について、じっくり考えてみる必要があります。

 19世紀から20世紀の前半にかけては世界的な帝国主義の時代です。中国も諸外国から様々なものを奪われてきました。1840年のアヘン戦争で敗北した清国はイギリスに香港を奪われました。以来、フランス、ロシア、ドイツ、アメリカなどの西洋列強が中国に進出し、中国人の主権を侵害してきたのです。日本もまた、そうした時代背景の下で1915年に袁世凱政権に対して「21カ条の要求」を突きつけるなど、中国人の主権を侵害してきたのです。

 習近平主席が強調する「中華民族の夢」とは、主権を侵害されるという耐え難い屈辱を受けた中華民族の誇りと大国の地位を取り戻す試みと思われます。つまり、中国は過去の債権回収に入ったということです。

 かつて、中国は活発な海洋活動を展開していました。特に、造船、航海術が飛躍的に発達した宋の時代には、活発な海洋進出が展開され、南海貿易が栄えました。明の時代には東南アジアやインド洋にも大型船で積極的に進出しました。もちろん、清国の最盛期の版図や宋や明の時代の海洋活動の範囲を現代に当てはめようとするのは、イタリアがローマ帝国最盛期の版図を持ち出して、ヨーロッパの半分や地中海は自分のものだと言うようなものであり、受け入れられる議論ではありません。しかし、過去の屈辱をそそぎたいという中国の想いはわからないことでもありません。

 中国を強引で傲慢で非常識な国だと批判するだけでは、中国への対応を誤ることになります。「日本が強硬に出れば中国は折れる」などと考えるのは、外交上も極めて危険で短絡的なことと思われます。

 もちろん、「中華民族の夢」には、日本を含めた周辺諸国には受け入れ難いものもあります。しかし、頭から否定して彼らの過去の屈辱感を蘇らせる必要はありません。日本が彼らの屈辱感を刺激するような言動をとっても、両国には何の利益も無いでしょう。

 中国はやがて、力だけを頼りにしていてはいけないと悟るでしょう。力だけの国では、世界から信用されないし尊敬もされないからです。世界から信用と尊敬を得られなければ、世界をリードする国にはなれず、中華民族の誇りは達成できません。

 習近平主席は、すでにそのことを意識しているはずです。中国が世界から信用され、尊敬されるためには、人道的にも、文化的にも開かれた社会を築き世界に示す必要があるということです。

 私は、国が発展し、国民が豊かになれば、社会は自然と民主化の方向に進んでいくと考えています。歴史が示しているように、国民は豊かになれば、おのずと権利意識に目覚め、国の主が自分たちであることに気づき始めます。権利に目覚めた14億の民を抑え込むことは、いかなる政府、いかなる指導者をもってしても不可能です。

 結局、中国は連邦制の民主国家に移行していくしかないと思います。ユナイテッド・ステイツ・オブ・チャイナ、USCです。……