佐々木実 竹中平蔵氏の正体  

労働分野の規制改革を進める竹中平蔵氏

―― 竹中平蔵氏の実像に迫った、佐々木さんの『市場と権力』(講談社)は、新自由主義がいかにしてわが国に導入されてきたかを考える上で、示唆に富むものだ。

佐々木 竹中氏は、一月二十三日に開かれた産業競争力会議初会合で、「成長戦略に打ち出の小槌はなく、企業に自由を与え、体質を筋肉質にしていくような規制改革が成長戦略の一丁目一番地」だと語った。その翌日、安倍首相は竹中の発言をそっくりそのままなぞるような口ぶりで規制改革の必要性を唱えている。安倍首相と竹中氏の近さを象徴する場面だった。

 小泉政権時代に大きな役割を果たした竹中氏は、その後様々な批判を浴び、民主党政権時代には一旦過去の人となったかに見えた。ところが、それでも生き残り、安倍首相にとりたてられ、いまや新自由主義イデオローグの第一人者となっている。

―― いま産業競争力会議や規制改革会議で、解雇規制の緩和など労働分野の規制改革が論じられているが、ここには露骨な利益誘導があるのではないか。

 小泉政権は、労働分野の規制改革を断行して、人材ビジネス市場の拡大をもたらしたが、小泉政権が幕を下ろした後、竹中氏は人材派遣会社パソナグループの創業者である南部靖之氏から同グループ特別顧問として迎えられた。そして、二〇〇九年には取締役会長に就いている。

佐々木 竹中氏が労働分野の規制改革に意欲を持ち続けていることは間違いない。彼は、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏との対談(『文藝春秋』四月号)で、「労働市場にも、健全な競争がないわけです。日本の正社員は世界で最も守られていますが、これは、一九七九年に東京高裁が出した特異な判例があるためです」と語っている。

―― パソナグループ会長が、労働分野の規制改革を論じること自体がおかしいのではないか。

佐々木 まったくおかしな話だ。ところが、大手メディアは利権問題を引き起こしかねない事実をとりあげようとしないばかりか、竹中氏の肩書として「慶應義塾大学教授」としか書かない。本来、「パソナグループ会長」という肩書も併記すべきだ。産業競争力会議や規制改革会議は議論の内容の是非を論じる前に、構成メンバーが経営者や経済学者に偏り過ぎていることを問題にしないといけない。

―― アメリカでは、「リボルビングドア」(回転ドア)と呼ばれる通り、民間・政府間の交流人事の名のもとに、一部のエリートが政府、大企業、学界の役職を回し合い、一部の勢力の「お手盛り」で国家を運営しているように見える。

佐々木 アメリカ社会における経済学者たちと金融業界の癒着を描いたドキュメンタリー映画『インサイド・ジョブ』(チャールズ・ファーガソン監督、二〇一〇年)がアカデミー賞を受賞して話題となった。日本はアメリカ社会の病理ともいえる「リボルビングドア」をさらに歪曲した恰好で真似ようとしているようにみえる。

 ビジネスの論理に偏ることなく、国民生活全体の立場に立って正論を唱える政治家がいなくなってしまっていることも大きな問題だ。……

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