田村秀男 中国経済はマイナス成長だ

(前略)

ドルの裏付けを必要とする人民元

―― これまで中国経済は急速な発展を遂げてきましたが、ここに来て経済成長に陰りが見え始めています。なぜ中国はこれほどまでに経済成長することができたのか、そしてなぜ成長が減速し始めたのか、その点についてうかがいたいと思います。まず、なぜ中国経済はこれほど発展することができたのでしょうか。

田村 「管理変動相場制」によるところが大きいでしょう。これは、人民元の対ドルレートを上下5%ほどの変動率で維持するシステムです。この制度は、中国人民銀行が輸出による貿易代金や香港経由の投機資金など、中国本土に入ってくる巨額のドルを買い上げ、その分だけ人民元を発行することで成り立っています。

 これは香港も同様です。香港の発券銀行である香港上海銀行、スタンダード・チャータード銀行、中国銀行は、彼らの口座に入ってくる米ドルに応じて香港ドルを発行しています。そうすることで、香港ドルと米ドルの為替レートを一定に保っています。

 このように、人民元にはドルの裏付けがあり、事実上のドル本位制です。中国はこの制度を維持してきたからこそ、人民元の信頼性を確保し、経済発展を遂げることができたのです。それ故、中国人民銀行が、中国本土に流入するドルと関係なく人民元を発行することはありません。もしドルと関係なく人民元を発行すれば、人民元の信頼性が失われてしまうからです。

―― 人民元自体は信用されていないということですか。

田村 中国国民は伝統的に自国の通貨を信用しません。世界で最初に紙幣を発行したのは宋の時代の中国ですが、これも銀と交換できるという信用のもとに成り立っていました。

 現在、中国では中間層も相当豊かになっており、彼らを始めとする多くの人たちが人民元で資産を運用しています。しかし、これは人民元で儲かっている間だけです。いざとなればすぐにドルに代えるでしょう。習近平氏が党総書記に就任した2012年には、資本の流出規模が年間2000億ドルを越えたという実例もあります。

 北京中央もこの点についてはよくわかっています。それ故、彼らは人民元の対ドルレートを安定させ、なおかつ少しずつ強くなるようにしています。それにより、中国国民が中国資産を持ちたがるようにしているのです。

 また、中国本土に流入する外貨は、一時期はアメリカやヨーロッパ、日本の対中直接投資によるものでしたが、今では中国の国有企業によるものが大半を占めています。もし中国経済が悪化し、彼らが中国から資本を逃がそうとすれば、北京中央の官僚たちがそうした連中を汚職の摘発などによって締め上げ、資本の流出を食い止めるでしょう。北京中央にはその気になれば金融の流れをコントロールできる力があります。


中国経済は実質的にマイナス成長だ

―― なぜ中国経済は減速し始めたのでしょうか。

田村 中国の経済成長はもともと不動産開発主導型によるものでした。とりわけリーマンショック以降は、銀行融資を3倍に増やして不動産開発を行いました。それだけお金を使ったのだから、景気が立ちあがるのは当然の話です。これにより中国は8%以上の成長を実現してきました。

 しかし、こうした過剰投資の結果、中国には住み手のない高層マンションが立ち並ぶようになりました。そのため、不動産価格も下落しています。もはやこれ以上不動産に投資することはできません。

 中国当局は、実質成長率は7・4%などと発表していますが、私は実質的にはゼロ成長かマイナス成長だと見ています。それは、中国の鉄道貨物輸送量の伸び率から推測できます。中国のGDPの5割は物の生産で占められており、物の生産が活発になれば鉄道貨物輸送量も増えます。実際、李克強首相も遼寧省党書記時代に、中国のGDP統計は作為的で信頼できないが、「重量をもとに運賃を計算する鉄道貨物量はかなり正確にGDPと連動する」と述べています。

 これまでの鉄道貨物輸送量の推移を見ると、中国当局が発表する実質成長率が8%を割り込んだ時、鉄道貨物輸送量は前年同月比でゼロ以下になります。リーマンショック直後、中国当局は実質成長率を6・6%と発表しましたが、鉄道貨物輸送量はマイナス6%でした。

 現在の中国も同じような状況にあり、鉄道貨物輸送量はマイナスです。それ故、中国の実質成長率もゼロ以下だと思います。

 こうした状況にも関わらず、中国は平均賃金を年率で名目10%ほど上げています。賃上げをしなければ、国内の共産党体制への支持を維持することができないからです。これははっきり言って自滅路線です。また、労働者の賃金が上がっているため、日本企業を含む外資がミャンマーやベトナム、インドなどへ移ってしまっています。……

全文は本誌12月号をご覧ください。