トルコは「第二のシリア」になる
1月1日にトルコのイスタンブールで銃乱射事件が起こり、少なくとも39人が死亡しました。これに対して、イスタンブールの知事は「テロ攻撃だ」と断定しており、アメリカの国家安全保障会議(NSC)のプライス報道官も「恐ろしいテロ攻撃に対して強く非難する」という声明を出しています(1月1日付毎日新聞)。
今回の事件も含め、トルコでテロが頻発するようになった原因の一つは、2016年7月に起こったクーデター未遂事件にあります。エルドアン大統領はこの事件をきっかけに、トルコ軍や警察の幹部たちを次々に更迭しました。そのため、軍や警察の機能が低下してしまっているのです。
もしエルドアン大統領が体制を立て直すことができなければ、トルコもまたシリアのように「破綻国家」になってしまう恐れがあります。そうなれば、中東はさらなる混乱状況に陥ってしまうでしょう。
ここでは弊誌2016年9月号に掲載した、中東専門家の佐々木良昭氏のインタビューを紹介したいと思います。
オスマン帝国が復活する日
―― トルコ情勢は今後どのように推移すると考えられますか。
佐々木 いくつかの可能性が考えられます。第一の可能性は、エルドアンの独裁によってオスマン帝国が再現するというものです。エルドアンは今回のクーデターをきっかけに、軍や警察の中の危険分子、政権に批判的な教育者やジャーナリスト、ギュレン学校の出身者たちを芋づる式に逮捕しました。今のトルコ国内にはエルドアンに楯突く人間はいません。
対外的には、エルドアンはロシアとの関係を強化することで、国際的な地位を高めようとしています。トルコ軍がロシア軍機を撃墜して以来、トルコとロシアの関係は極めて緊張していましたが、エルドアンが謝罪したことで改善へ向かっています。また、エルドアンは今回クーデターを起こした軍人の中にロシア軍機を撃墜したパイロットが含まれていると述べ、クーデターは両国にとって共通の敵だとすることで、プーチンへ秋波を送っています。
エルドアンとプーチンの間には、シリアのアサド政権をめぐって意見の対立がありました。しかし、エルドアンはプーチンとの関係改善のため、これまでのシリア政策を転換することも示唆しています。
プーチン大統領も、天然ガスをウクライナ経由でヨーロッパに流すことをやめ、トルコ経由で流そうと考えているため、トルコとの関係を重視し始めています。その結果、8月9日にはプーチン・エルドアン会談が予定されています。
こうしたトルコの動きに対して、アメリカは不満を募らせています。しかし、アメリカはトルコとの関係が悪化してトルコの空軍基地が使えなくなると、対IS戦略上、極めて不都合な状況に陥ってしまいます。また、シリア問題についても、アメリカではロシアに任せようという風潮が強くなっています。そのため、アメリカはトルコを批判したくても批判できないのです。
エルドアンがこのままアメリカと距離を置き、ロシアと手を結べば、全く新しい国際構造が生まれる可能性があります。トルコの軍事力は中東においてダントツであるため、中東情勢は結局のところトルコの動きに左右されるからです。
第二の可能性は、エルドアンの粛清が行き過ぎた結果、トルコが混乱に陥るというものです。官庁で実務を取り仕切る課長クラス以上の地位には、ギュレン学校出身者たちがたくさんいました。エルドアンは彼らを更迭してしまったため、国内政策が上手く機能しなくなる恐れがあります。そうなれば、外国の投資家たちも投資を渋るようになるでしょう。
また、エルドアンが軍と警察の幹部たちを大幅に更迭、左遷したため、軍や警察の機能も低下しています。そのため、トルコと対立関係にあるクルド労働者党(PKK)やISなどが、テロを起こしやすい状況が生まれているのです。
トルコ国内が混乱し、国民生活が困窮するようになれば、国民の怒りは強くなるでしょう。そうなれば、クーデターではなく、人民による革命が起こる危険性もあります。あるいは、今回更迭された軍の幹部たちが連携し、再びクーデターを画策する可能性も否定できません。
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