三橋貴明 種子法廃止は亡国への道

「アメリカ抜きのTPP」の狙い

 森友学園問題や共謀罪に注目が集まる中、種子法の廃止法案が可決されました。種子法廃止は日本の農業に大きな影響を与える極めて重要な問題です。ところが、この問題について大手マスコミは全くと言っていいほど報じていません。

 最近、日本政府はアメリカ抜きでTPPを発効しようと画策していますが、トランプ政権が短命に終われば、再びアメリカを含めてTPPを発効できると考えているのでしょう。種子法廃止もそれと無関係ではあり得ません。我々は日本の農業を守るために何をすべきか、真剣に考えねばなりません。

 ここでは弊誌5月号に掲載した、経世論研究所所長の三橋貴明氏のインタビューを紹介したいと思います。全文は5月号をご覧ください。

種子法廃止は食糧安全保障の廃止だ

── 種子法廃止法案はなぜ問題なのですか。

三橋 「モンサント法」だからです。モンサントは世界の遺伝子組み換え(GM)種子市場で90%以上のシェアを誇る独占的な企業です。

 GM作物には大きな問題があります。まずは食の安全が脅かされます。アメリカではモンサントのロビー活動の結果、FDA(米医薬食品局)によってGM食品は既存の食品と実質的に同等だから安全だと認められましたが、「実質的」の定義は厳密に評価されていません。GM食品が本当に安全かどうかは分からないのです。

 たとえば中国では、共産党上層部は自分たちのための農場「特供(特別供給基地)」を経営して、安全な食べ物を食べています。一方、アメリカでは金持ちは高価で安全な食べ物が食べられますが、貧乏人は安価で粗悪な食べ物しか食べられません。食の安全が崩壊すれば、日本も一部の特権階級しか安全なものを食べられない国になります。

 さらに、食料安全保障が崩壊します。モンサントはGM種子の特許を持っており、収穫物からの種採りを認めていません。モンサントのユーザーの農家は毎年種子を買わなければならず、種採りをすると特許権の侵害として訴えられてしまいます。モンサントは種子の特許によって世界中の食料を支配しようとしていると言っても過言ではありません。

 安倍政権の農業政策には食の安全や食料安全保障という発想が欠落しているため、最終的に日本は他国に食料を依存することになります。外国が不作になったらどうするつもりなのでしょうか。

 何より問題なのは、生態系そのものが歪められることです。GM作物を栽培すると、花粉が飛散し、在来種と交配してしまいます。たとえばメキシコではGMトウモロコシを栽培していないのに、奇形のトウモロコシが大量発生しました。そこで在来種を調べたところ、確認した全てのトウモロコシがGMトウモロコシの遺伝子を持っており、純粋な在来種は発見できなかったそうです。

 仮に日本でGMコメの栽培が始まれば、日本古来の在来種が汚染されてしまい、永遠に失われてしまうでしょう。食の安全や食料安全保障の問題は取り返しがつきますが、生態系の汚染は取り返しがつかないのです。

 種子法廃止法案は、このようなモンサント支配に道を開く「モンサント法」なのです。

── すでに日本国内でのGM作物の栽培は法的に認められ、一定の基準を満たして承認を受ければ可能です。

三橋 種子法はその歯止めになっています。そもそも種子法は、都道府県は種子生産圃場で日本古来の原種と原原種を生産し、その地域に合った優良品種を指定して農家に提供せよ、という法律です。種子法の立法趣旨からすれば、在来種を汚染するGM作物の栽培は認められません。種子法は日本古来の種子を守る防壁であると同時に、GM作物の栽培を食い止める防壁でもあるのです。

 しかし種子法が廃止されれば、日本古来の種子を守る法的義務と予算的裏付けがなくなり、やがて人材もいなくなっていくでしょう。その一方で、都道府県はGM作物の栽培に躊躇する必要がなくなり、行政判断でどんどん解禁されていくはずです。そうなれば、最終的に日本古来の種子は維持されなくなり、絶滅するでしょう。同時に日本の農家はモンサントに支配され、日本人は先祖伝来のコメが食べられず、遺伝子組み換えのコメを食べるしかなくなると思います。

 種子法廃止は、日本古来の種子の廃止、食の安全の廃止、食料安全保障の廃止だということです。すなわち豊葦原瑞穂国の亡国です。……