安倍首相は憲法を改正できるか
10月24日に臨時国会が召集されます。自民党の憲法改正案が焦点になる見通しです。しかし、この憲法改正案については、公明党や野党だけでなく、自民党内からも批判の声があがっています。その一人が、自民党総裁選で善戦した石破茂氏です。こうした反発を抑えない限り、安倍首相が憲法改正を実現することは不可能です。
ここでは弊誌11月号に掲載した、石破氏のインタビューを紹介します。全文は11月号をご覧ください。
日本はアメリカの占領下にあるのか
―― 10月2日、安倍総理は内閣改造・党内人事後の記者会見で「(秋の臨時国会に)改正案を提出すべきだ」と述べました。
石破 安倍総理は総裁選後、臨時国会での憲法改正案の提出に向けて公明党と事前に調整する意向を示されましたが、同党の山口代表は拒否されました。そして、安倍総理は党内人事で憲法改正推進本部長に下村博文先生を任命されました。これはとにかく憲法改正を手掛ける、という意思表示なのだろうと思います。
しかし公明党の賛成が得られない限り、憲法改正の発議に必要な総議員の三分の二は確保できません。安倍総理は改憲案を提出してから公明党を説得するおつもりかもしれませんが、それができなければ発議はできません。もしかすると、発議まで行かなくとも国会に改憲案を出したことに意義があるのだ、総理総裁としてやるべきことはやったのだ、ということなのではないかと推察しております。しかし、そのこと自体がそれほど重要なのだろうかという思いが私にはあります。
―― 安倍総理は昨年5月3日、日本会議系のシンポジウムに向けたビデオメッセージで、憲法9条1項2項を残したまま自衛隊の存在を明記する私案を一方的に示しました。すると、自民党はそれまでの議論をかなぐり捨て、総理総裁の意向通りに改憲案をまとめ上げました。
石破 国の独立とは何か、軍隊とは何か、交戦権とは何か――こういう独立国として根本的な問題について、開かれた闊達な議論がない、その恐ろしさをつくづく痛感しています。
最初に安倍総理の提案を耳にした時は、相当に驚きました。本当にこんなことをおっしゃったのかと。その後に野党がこれを国会で取り上げたとき、安倍総理は「読売新聞を読んでください」と答弁され、われわれが「せめて自民党議員には説明してほしい」と頼んでも特段のご説明はいただけませんでした。
それから党内議論が始まりましたが、私が「自衛隊を憲法に明記しただけでは、憲法由来の安全保障の問題は解決しない。憲法9条2項は交戦権を認めていないが、交戦権とは戦時国際法で認められた『戦争のルール』であって、それが認められない方がよほど国家にとって危なくないですか」と言っても、それに続く議論はありませんでした。
一方、安倍総理が「憲法に自衛隊を明記する、これが自民党の責務です」とおっしゃると、みんな「ウオーッ」と盛り上がって拍手喝采になる。それはたしかに分かりやすいかもしれない。しかし、何の解決にもならない。
―― 昨年11月、アメリカのトランプ大統領は歴代大統領として初めて横田基地から入国しました。これは日本の主権を踏みにじる侮辱行為ですが、誰も反応しませんでした。
石破 歴代のアメリカ大統領は日本に敬意を払って羽田から入国しましたが、トランプ大統領は初めて横田に下りました。そして米軍人に向けてスピーチを行い、自衛官も直立不動でその英語の演説を聞いていた。これには違和感を覚えなければならないのです。トランプ大統領が自覚的にやったのかどうかは分かりませんが、そうだとしたら「日本はアメリカの占領下にあるのだ」ということを見せつけようとしたとしか思えないような行動でした。
外務省は横田から入国した理由として「羽田では警備上の問題があり、民間機に迷惑がかかる」と説明していました。確かに民間機に迷惑をかけないことは重要ですが、だから横田基地ということでいいのかどうか。そして、そのまま米軍人に演説をするべきだったのかどうか。こういう感覚や問題意識を持った日本人がどんどんいなくなっているとすれば、怖いことだと思います。