第二、第三の加計学園問題が起こるか
加計学園問題をめぐって政界が大きく揺れています。官僚の安倍政権に対する不満は高まっており、今後も様々な告発がなされるのではないかという見方もあります。また、自民党の派閥再編も進んでおり、安倍政権の対応次第では一気に政局が動き出す可能性があります。
しかし、これは安倍政権だけの問題ではありません。今後の政権においても、国家戦略特区という仕組みが残る限り、同じような問題が再び起こる恐れがあります。我々はそもそも国家戦略特区とは何かということを、改めて考える必要があります。
ここでは弊誌2014年6月号に掲載した、大宅壮一賞作家でジャーナリストの佐々木実氏のインタビューを紹介したいと思います。なお、ウェブサービスnoteにご登録いただくと、全文を100円で読むことができます。noteの登録は無料です。是非お試しください。(YN)▼
安倍政権に楯つく自治体は排除
―― 国家戦略特区が動き始めています。安倍政権は国家戦略特区の第一弾として、東京圏や関西圏などを指定しました。現在の状況をどのように見ていますか。
佐々木 特区構想自体は小泉政権や民主党政権の時代にもありました。そこでは自治体からの要請に沿う形で規制改革が進められていました。
それに対して現在の安倍政権の国家戦略特区では、トップダウンによる規制改革が進められています。安倍政権が閣議決定した基本方針でも、国家主導による規制改革という点が強調されています。従来の特区を「下からの特区」とすれば、安倍政権の特区は「上からの特区」なのです。
例えば今回、北海道が特区に指定してほしいと申請したところ、却下されるということがありました。その背景としては、北海道が農業改革に後ろ向きだという点が挙げられると思います。実際、北海道はTPPについても以前から反対の姿勢を示していました。
つまり、安倍政権の進める規制改革に賛成か反対かによって、その自治体が特区に指定されるかどうかが大きく左右されるのであり、安倍政権に楯つくような自治体は優遇されないということです。それが今回の事例で明らかになったと見ていいでしょう。
同じようなことは他の自治体でも起こっています。東京都が特区の指定範囲について、東京全域ではなく9区に限定したところ、竹中平蔵氏ら国家戦略特区諮問会議の民間議員たちが「なぜ東京都全域を指定しないんだ」、「踏み込みが足りない」といった批判的なコメントを発表しました。
これについては、特区に賛成している日経新聞ですら、都庁幹部の声として「民間議員はなぜこんなに執拗に言ってくるのか。何か意図があるのだろうか」という批判的な見解を紹介しています。
自治体が特区のやり方に反発するのも無理はありません。諮問会議の民間議員たちは「規制改革の専門家」なのかもしれませんが、農業や教育、医療など、規制改革の対象となっている分野全てに精通しているわけではありません。
彼らは規制改革を妨げるものを「岩盤規制」などと呼んでいますが、そうした分野でなかなか規制改革が進まないのにはそれなりの理由があります。現場の細かい事情も知らずに規制緩和を進めれば、現場から反対の声が上がるのは当然のことです。
国家戦略特区に正統性はない
―― 成田市が医療特区に指定するよう要請していることについて、地元の医師会は反発しています。自治体としては進めたいが、地元の関係者は反対しているということも起こっています。
佐々木 現在の特区の仕組みでは、いくら医師会や農業委員会などが反対したところで、それが政策に反映されることはありません。規制改革の主体はあくまでも国家戦略特区諮問会議であり、その民間議員には規制改革に賛成する人間しかなれないように規定されています。最初から現場の主要な当事者たちが意思決定に関与できない仕組みになっているのです。そこには当事者たちと対話しようという精神が全く見られません。
しかし、政治とは本来、国会の議論を通じて行われるものです。諮問会議が政策の作成から実行の段階にまで関与し、さらには主要な当事者たちをも排除するという現在のやり方が、本当に民主主義の姿として正しいのか、意思決定システムとして正統性があるのか、その点は繰り返し追及していく必要があります。