12月28日、岸田文雄外務大臣は尹炳世韓国外交部長官と会談を行い、慰安婦問題について合意に達しました。この問題については現在編集作業中の本誌2月号で取り上げる予定ですが、本ブログでもいくつかの点を指摘しておきたいと思います。
とりわけ重要なのが、安倍政権が慰安婦問題について軍の関与を認め、日本政府の予算から元慰安婦の方々の支援を行うことを決めたことです。これは事実上、日本政府が賠償責任を認めたということであり、安倍総理にとっては苦渋の決断だったと思います。正確を期するために、日本外務省のHPから引用します。
ア 慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。イ 日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
一方、韓国側にとっても、この合意は決して納得のいくものではありません。慰安婦問題は韓国のナショナリズムを刺激するものであり、譲歩の余地はありません。実際、韓国国内では今回の合意について既に反発の声が出ています。12月28日付の「産経ニュース」は次のように報じています。
韓国の聯合ニュースによると、日韓両政府による慰安婦問題の合意について、元慰安婦の李ヨンスさん(87)は28日、「慰安婦被害者たちのために考えていないようだ」「(会談結果を)すべて無視する」と強い不満を表明した。
元慰安婦が暮らす「ナヌムの家」の安信権(アン・シングォン)所長も「被害者たちを無視した政治的野合だ」と非難した。
韓国では今後このような声がさらに強くなり、朴政権に大きな打撃を与える可能性がります。それ故、今回の合意は韓国側にとっても苦渋の決断だったと言えます。
外交交渉というものは、当事国がお互いに譲歩して妥結するのが理想的だと思います。プーチン大統領が言う「引き分け」です。その意味で、今回の合意は、お互いに譲歩した結果によるものだという点に限って言えば、評価できると思います。
もっとも、互いに譲歩して交渉を妥結させるためには、指導者間の強い信頼関係が必要です。しかし、安倍総理と朴大統領の間に強固な信頼関係があるとはとても思えません。
それにも拘らず今回合意に達することができたのは何故か。それは他国の介入があったからでしょう。具体的に言えば、アメリカが強力に介入した可能性があります。年末の忙しい時期に慌ただしく外相会談が行われたこと自体、アメリカの影を感じます。アメリカ政府が日韓が合意に達する前から、合意に至った場合に歓迎声明を出す方針だと報じられていたことも、アメリカの介入を臭わせるものです。
それ故、今回の合意に賛成するにせよ反対するにせよ、その裏にはアメリカの存在があったということ、そして安倍政権はそのアメリカの方針に従ったということを、我々はしっかりと認識する必要があります。(YN)