事実上の白紙撤回
河野太郎防衛相がイージス・アショアの配備プロセスを停止すると表明しました。事実上の白紙撤回です。もともと多くの批判を浴びていた計画とはいえ、まさに急転直下の方針転換と言えます。朝日新聞の報道によると(6月16日)、今回の決断は河野氏のパフォーマンスに過ぎず、アメリカの反発を受けて見直しを迫られる可能性もあるとされています。
今後この問題がどのように推移していくか注意深く見守る必要がありますが、河野大臣を方針転換に追い込んだ最大の要因は秋田魁新報の報道でしょう。この間、秋田魁新報はイージス・アショア配備計画を継続に取り上げ、厳しく批判してきました。秋田魁新報はそれを『イージス・アショアを追う』という一冊の本にまとめています。
イージス・アショアは2017年に突如、秋田県と山口県に配備されることが発表されました。それを受けて、秋田魁新報は総力をあげてこの問題を取材することを決断します。
秋田魁新報は配備候補地とされた地元住民の声に耳を傾け、防衛省に取材し、すでにイージス・アショアが配備されているルーマニアを訪れるなど、地道な取材を徹底的に行いました。これは一見すると地味な作業に思われるかもしれません。しかし、一つ一つ取材を積み重ねていくことこそ、事の真相にたどり着く最短ルートなのです。
実際、彼らが粘り強く取材を続けた結果、防衛省が杜撰な報告書を作成していたことが明らかになりました(本書147頁)。なんと防衛省は配備候補地を検討する際、実地調査をせず、グーグルアースを使って資料を作成していたのです。
その後も防衛省は住民説明会で職員が居眠りをするなど、不誠実な対応を続けました。そのため、地元の不信感はどんどん強くなっていきました。
そうした中、5月6日に政府関係者が現行案を断念し、新たな候補地選定に入ったことを明らかにします。河野大臣は当時この動きを否定していたため、今回の決断との関連性はわかりませんが、秋田魁新報の報道が政府を動かしたことは間違いありません。
高まる地方紙の役割
秋田魁新報の活躍は地方紙の今後を考える上でも示唆に富んでいます。全国紙は経済的に厳しい状況にあり、地方へ派遣する記者を減らしています。そのため、地方の問題を継続的に取材できるのは地方紙だけになっています。もちろん地方紙も経済的に楽ではありませんが、地方紙の役割はより一層増しているのです(167〜168頁)。
また、全国紙の記者は官邸へ忖度し、イージス・アショアのような重大な問題が起こっても政権を厳しく批判しようとしません。それに対して、地方紙は普段、官邸に出入りしているわけではないので、官邸に忖度する必要がありません。そういう意味でも、地方紙の重要性はますます大きくなっていると言えるでしょう。