櫻井よしこ氏に見られる「受け売りの心理」

自らの頭で考えないジャーナリスト

 櫻井よしこ氏は当初、天皇陛下の生前退位(譲位)に対して慎重な姿勢を見せながらも、天皇陛下のお気持ちを尊重する態度を示してきました。ところが、政府の有識者ヒアリングでは「基本的に譲位に代わる摂政か、そのほかの道を探るのがよい」として、態度を一変させました。

 これにはいくつかの理由が考えられます。櫻井氏と関係の深い日本会議関係者たちは、もともと天皇陛下の生前退位に反対してきました。そのため、櫻井氏も日本会議関係者たちから何らかの示唆を受けた可能性があります。

 また、櫻井氏に最初から生前退位について何の定見もなかったという可能性もあります。これは櫻井氏の他の議論にも当てはまります。実際、櫻井氏が変節するのはこれが初めてではありません。それは自らの頭で物事を考え、しっかりとした見解を持っていないからでしょう。しかし、そうであれば、ジャーナリストとして大いに問題があると言わざるを得ません。

 もちろん主張に一貫性さえあればいいというわけではありません。例えば、いくら実証的な批判をされても、その批判を無視し、同じ主張を繰り返す人たちがいますが、それは自分の言説に責任を持っていないということです。もし自分の言説に責任を持っていれば、いい加減な主張を垂れ流すことなどできないはずです。

 ここでは、弊誌2月号に掲載した、哲学者の山崎行太郎氏のインタビューを紹介したいと思います。なお、櫻井氏と関係の深い日本会議について知りたい方は、弊社より12月11日に出版予定の『日本会議をめぐる四つの対話』(菅野完・著)をご一読いただければ幸いです。また、12月9日には本書出版を記念して渋谷のLOFT9でイベントを開催いたします。是非ともご参加ください。(YN)





櫻井氏を絶賛する安倍総理

── 山崎さんは『保守論壇亡国論』で、櫻井よしこ氏を厳しく批判されています。なぜ櫻井氏を批判する必要があるのか、改めて教えてください。

山崎 最初に強調しておきますが、私は櫻井氏の著作自体にはほとんど関心がありません。読む価値もないと思っています。それでも私が櫻井氏を批判するのは、彼女が安倍政権に非常に近く、彼らに大きな影響を与えているからです。

 櫻井氏が安倍総理に一方的にすり寄っているというのであれば、それはわかります。時の権力者にすり寄れば、独自の情報を入手できるなど、得られるものも少なくないでしょう。ところが、安倍総理も櫻井氏を上手く利用しようとしているのか、彼女にすり寄るような姿勢を見せています。

 それを端的に示しているのが、櫻井氏の『日本の覚悟』の「解説」を安倍総理が書いていることです。安倍総理はそこで、櫻井氏を保守派の重鎮であるかのように持ち上げ、絶賛しています。しかも、安倍総理は「ぶれない」とか「日本の国益」といった言葉を使ったり、中国脅威論を展開するなど、最近の保守論壇によく見られるような議論を行っています。つまり、安倍総理の言説は櫻井氏レベルだということであり、安倍政権の政治はいわば「櫻井よしこ的な政治」だということです。

 それ故、安倍政権を批判するためには、安倍総理の背後で黒衣のような役割を果たしている櫻井氏を批判する必要があります。安倍政権の政策の問題点を一つ一つ取り上げるだけでは、効果的ではありません。実際、TPPや集団的自衛権に対する批判は、全て空振りに終わりました。むしろ櫻井氏のような人物の実態を暴くことこそ、安倍政権に対する有効な批判になると思います。

── 櫻井氏の言説が優れていれば、安倍総理がその影響を受けていたとしても問題はないと思いますが、櫻井氏の言説のどこに問題があると考えていますか。

山崎 最大の問題は、櫻井氏の議論の多くが他の言論人の受け売りだということです。それは、彼女がいくら批判されてもまともに反論しようとせず、ひたすら同じような議論を繰り返していることからもわかります。

 もし自らデータを集め、自分の頭で物事を考え議論を行っているのであれば、何か厳しい批判を受けた場合、自分の議論が正しいことを証明するためにしっかりとした反論をするはずです。相手が正しいと思えば、自らの議論を修正することもあるでしょう。少なくともこれまでの議論をそのまま強引に進めることはありません。

 ところが他人の受け売りをしている場合は、たとえその議論が間違っていたとしても、最終的な責任は参照先の言論人にあるのであって自分にはないということで、何の痛みも感じません。これはエイズ報道やA級戦犯の靖国神社合祀問題についての議論など、櫻井氏に一貫して見られる傾向です。彼女は明らかに間違っているにも拘らず、批判されても無視を決め込み、誤魔化します。彼女の出世作である『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』を絶版にしているのが、その実例です。

 同じことは安倍総理にも言えます。例えば集団的自衛権問題などについて、いくら野党が批判しても、安倍総理は同じような答弁を繰り返すだけでした。あれはまさに受け売りの心理です。自分の頭で物事を考えていないから、間違った言説を無責任に垂れ流し、しかもそれに恥を感じないわけです。