起点は日ソ共同宣言
12月17日に安倍首相は日本テレビの単独インタビューに応じ、日露首脳会談の内幕の一端を明らかにしました。安倍首相は次のように述べています(12月17日付日テレNEW24)。
Q:(プーチン大統領の)「領土問題は存在しない」という発言は(ロシア)国民向けの発言でしょうか?
安倍首相「私とプーチン大統領の間においては、そういう発言は一切ないわけでありまして、あくまでも56年(日ソ共同)宣言が起点である。ここで決められたことは2島(歯舞・色丹)についてのことであるけれども、しかしただ『主権をかえすということは書いてない』というのが、プーチン大統領・ロシア側の理解であります。その点で日本側と齟齬(そご)がまだもちろんあるわけです」
これは重要な発言だと思います。日本の中には、日露首脳会談では経済協力についてのみ議論され、領土交渉は進展しなかったのではないかという懸念がありましたが、安倍首相は間違いなく領土問題の核心に踏み込んでいます。
また、これは従来の安倍政権の方針を変更するものでもあります。安倍政権はこれまで北方領土について、「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」という東京宣言に基づいて交渉を行っていると述べていました。これは一見すると北方四島における日本の主権を要求しているように思えますが、そうではありません。元外務省主任分析官の佐藤優氏が弊誌12月号で述べているように、四島の帰属問題の解決には、日本4ロシア0、日本3ロシア1、日本2ロシア2、日本1ロシア3、日本0ロシア4という5通りの可能性があります。極端に言えば、日本に1島も戻ってこなかったとしても、四島の帰属問題を解決したことになります。
しかし、日ソ共同宣言を起点にするならば、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しが基礎となります。日本1ロシア3や日本0ロシア4という可能性はあり得ません。実際、安倍首相は日露共同記者会見で東京宣言について言及しませんでした。ここからも、安倍首相が本当の意味での「新しいアプローチ」によって首脳会談に臨んだことがわかります。
「主権をかえすということは書いてない」の意味
とはいえ、プーチン大統領が歯舞・色丹について「主権をかえすということは書いてない」と言っている以上、ロシア側は歯舞・色丹の主権を返還するつもりはないのではないかと考える人もいると思います。しかし、プーチン大統領が言っているのは、その点について書かれていないから、これから日露間で対話を重ねて決着をつけましょうということです。その点について書かれていない以上、議論の余地はないということではありません。
ここでプーチン大統領が懸念しているのは日米安保条約です。歯舞・色丹が日本の主権下に置かれ、日本の施政権が及ぶようになれば、日米安保の適用範囲内となります。しかし、それはロシアにとって大変な脅威です。もし歯舞・色丹に米軍基地が建設される可能性が少しでもあれば、プーチン大統領は絶対に返還しません。それを避けるためには、以前のブログで触れたように、どのような方法であれ北方領土に日米安保を適用しないような形にする必要があります。
この点について、日本テレビのインタビューでは明らかにしていませんが、安倍首相はおそらくプーチン大統領との通訳のみを交えた一対一の会談で、「考えてみる」とか「知恵を絞ってみる」といった前向きな発言をしたはずです。そうでなければ、日露間の共同経済活動についてさえ合意できなかったでしょう。
その意味で、今回の首脳会談は、何とか領土交渉を継続していくためのきっかけになり得るものだったと思います。確かに目に見える交渉成果がないことは事実ですが、成果が少ないからといって安倍外交を批判し、交渉を頓挫させるようなことをすれば、北方領土は永久に返ってきません。わずかな成果しか得られなかったとして批判するか、わずかな成果でも得ることができたとして評価するか、どちらが日本にとってプラスになるか、我々はしっかりと考える必要があります。
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