安倍首相は国民にしっかりと説明せよ
今回の日露首脳会談は、前回のブログで指摘したように、領土交渉を進展させるためのきっかけになり得るものだったと思います。もちろんこれによって直ちに領土交渉が動き出すということではなく、首の皮一枚でつながっているといった状態です。しかし、安倍首相がうまく対応すれば、何とか領土交渉を進展させていくことはできると思います。
これに対して、日本国内では、経済協力ばかり先行して領土問題は動いていないという批判がなされています。確かに共同記者会見でも経済協力の話題ばかり目立っていましたし、日ソ共同宣言についてもほとんど言及がなかったため、領土交渉が動いていないと見なされるのは無理もないことだと思います。
これは何よりもまず安倍首相の責任です。安倍首相が国民に対して、今回の会談でどのようなものを得ようと思っていたのか、実際にどのようなものが得られたのかということなどをしっかりと説明していないから、あらぬ誤解を生んでしまうのです。もちろん現在進行中の外交交渉の全てを話すことはできませんが、それでもギリギリのところまで国民に理解してもらおうという真摯な態度を見せるべきです。
これは今回に限った話ではありません。例えば、これまで日本政府はロシアに対して北方四島の返還を要求してきましたが、安倍政権は国後島と択捉島の返還を要求していません。これは、賛成するかどうかは別にして、一つの政策判断としてはあり得ることです。ただし、国後島と択捉島の返還を求めないというならば、それをしっかりと国民に説明する必要があります。ところが、安倍首相は国民の反発を恐れてか、現在でも四島全ての返還を求めているようなフリをしています。国民を騙すような外交は直ちにやめるべきです。
そもそも、今回の会談に対する国民の期待値が上がったのも、安倍首相があたかも今回の会談によって領土問題に決着がつくかのような態度を見せたからです。正直に交渉の現状を説明していれば、それほど期待値も上がらなかったでしょうから、現在のように批判されることもなかったはずです。安倍首相はそれこそプーチン大統領のように、国民と4時間以上にわたって一問一答するような対応を考えるべきです。
左派言論人の矛盾
しかし、安倍首相だけでなく、メディアにも責任があります。日本のメディアの中には、単に安倍政権が嫌いだからという理由で、今回の日露首脳会談が失敗したかのようなプロパガンダを垂れ流しているところもあります。
特に問題なのが一部の左派言論人たちです。彼らは普段は竹島や尖閣諸島をめぐる日本国内のナショナリズムを批判しているにもかかわらず、今回の首脳会談では北方領土問題が進展しなかったとして安倍政権を批判しています。しかし、それは彼らが批判してきたナショナリズムそのものです。そうであるなら、日本政府が竹島を取り戻せないことや、尖閣諸島について中国に弱腰であることも批判しなければ辻褄が合いません。
また、左派言論人の中には、政府や保守派がアメリカと共に中国包囲網を形成すべきだと主張すると、アメリカと中国は緊密な経済関係にあるのだから、アメリカが中国包囲網に参加するはずがないと批判している人もいます。つまり、彼らの考えでは、経済関係が進めば対立関係は解消されていくということです。ということは、もし仮に今回の日露首脳会談が経済先行だったとしても、日露の対立関係の解消につながるのだから、高く評価すべきでしょう。
このような経済先行批判の背景にあるのは、ロシアが経済協力を「食い逃げ」するのではないかという意識です。しかし、これは排外主義そのものです。この点については日本と沖縄の関係を考えればわかります。日本の中には、沖縄は3000億円以上の沖縄振興予算を受け取っていながら辺野古新基地建設に反対しているとして、沖縄は「食い逃げ」していると批判する声があります。ロシアが「食い逃げ」するのではないかという議論も、沖縄批判と同じく排外主義や差別感情に基づくものだということを認識する必要があります。
さらに言うなら、一部の対米自立派にも問題があります。彼らの中には、領土問題が動かなかったのはアメリカに遠慮したからだと批判する声があります。領土問題が動かなかったかどうかについては議論がわかれるところですが、日露間で共同経済活動が実施されれば、アメリカ主導によって行われているロシアに対する経済制裁に「穴」が開くことになります。世耕対ロ経済協力相は「経済協力プランが制裁にふれないかは、入念に確認している」と述べていましたが(12月12日付ロイター通信)、たとえ日露による共同経済活動が制裁に触れなかったとしも、欧米は絶対に納得しません。その意味で、共同経済活動には対米自立という側面があります。この点を無視すべきではありません。
安倍政権に批判すべき点が多いことは確かです。本ブログでも沖縄の基地問題をはじめとして安倍政権を厳しく批判してきました。しかし、安倍政権の沖縄への対応が批判に値するからといって、北方領土交渉も批判に値するということにはなりません。感情論や好き嫌いで論じるのではなく、事実に基づきつつそれぞれの問題を見ていく必要があります。(YN)