日露共同記者会見をどう見るか

ポイントは共同経済活動

 本日16日、安倍首相とプーチン大統領による共同記者会見が行われました。安倍首相そこで、次のように述べています(首相官邸のHPより)。

 過去にばかりとらわれるのではなく、日本人とロシア人が共存し、互いにウィン・ウィンの関係を築くことができる。北方四島の未来像を描き、その中から解決策を探し出すという未来志向の発想が必要です。

 この「新たなアプローチ」に基づき、今回、四島において共同経済活動を行うための「特別な制度」について、交渉を開始することで合意しました。

 この共同経済活動は、日露両国の平和条約問題に関する立場を害さないという共通認識の下に進められるものであり、この「特別な制度」は、日露両国の間にのみ創設されるものです。

 安倍首相がこれまで強調してきた「新たなアプローチ」とは東京宣言のことでした。しかし、安倍首相がここで言っていることは、東京宣言ではなく、その前段階の話です。安倍首相の狙いはおそらく、日露間で「特別な制度」を創設して共同経済活動を行うことで、東京宣言につなげていくことだと思います。前回のブログで、領土交渉を進展させるためには、東京宣言とは異なる本当の意味での「新たなアプローチ」が必要だと指摘しましたが、共同経済活動はまさに本当の意味での「新たなアプローチ」と言えます。

 もっとも、北方領土における共同経済活動について議論されるのは今回が初めてではありません。11月にリマで行われた日露首脳会談の際にも、プーチン大統領から提案されています。しかし、日本側は、現状のまま経済活動を行えばロシアの領有権を認めることにつながりかねないため、これに返答しなかったといいます(11月21日付朝日新聞)。また、12月4日付の読売新聞によれば、5月にソチで首脳会談を行った際には、安倍首相の方から共同経済活動について提案がなされたということです。

 なぜ安倍首相は5月にソチで共同経済活動について自ら提案しておきながら、11月にリマでプーチン大統領から共同経済活動の提案があった際にはそれに明確な返答をせず、今回の首脳会談でようやく共同経済活動について合意したのでしょうか。それは、安倍首相が述べているように、「日露両国の平和条約問題に関する立場を害さないという共通認識」が得られたからだと思います。日ロ両国の立場を害さない共同経済活動が具体的にどのようなものになるかはわかりませんが、もしこの共同経済活動がうまくいくならば、日露関係は現在とは違うものになっていくと思います。

安倍首相は「ダレスの恫喝」を克服できるか

 しかし、いくら共同経済活動がうまくいったとしても、それがそのまま領土問題の解決に直結するわけではありません。領土問題を進展させるためには、前回のブログでも指摘したように、どのような方法であれ北方領土に日米安保を適用しないような形にすることが不可欠です。

 実際、プーチン大統領は共同記者会見で、いわゆる「ダレスの恫喝」に触れつつ、次のように述べています(12月16日付産経ニュース)。

 日本と米国の特別な関係というものもあります。日米安保条約の中で、このような意味において、どのような展望があるのか、まだ私たちは分かりません。

 (日露首脳会談で)柔軟性ということを話したときに、私たちは日本のパートナーの友人の皆さんに、このような微妙な部分、またロシアの心配する、懸念の部分を考慮してもらいたいと思います。(中略)

 もし誰かが、私たち(ロシア側)が経済関係の発展だけに関心があり、平和条約の締結を二次的なものだと考えているというのであれば、それは間違いです。私たちにとって一番大事なのは平和条約の締結なんです。

 ここからも、プーチン大統領にとって大事なのは経済問題よりも政治問題(日米安保問題)であることがわかります。

 この点について首脳間でどのような議論がなされたかは明らかになっていません。しかし、おそらく安倍首相は前向きな提案をしたと思います。12月14日付の朝日新聞が、谷内正太郎・国家安全保障局長がロシアのパトルシェフ安全保障会議書記から、日本に2島を引き渡した場合に「島に米軍基地は置かれるのか」と問われた際、「可能性はある」と答えたと報じていますが、もし安倍首相が日露首脳会談で谷内氏と同じような主張をしていれば、共同経済活動についてさえ合意できなかったはずです。

 とはいえ、北方領土に日米安保を適用しないような形にすることは、極めて困難な作業です。日本の政治家や官僚たちは未だに「ダレスの恫喝」に縛られているようなところがあり、日米安保に触れようものなら強い反発が起こる可能性があります。また、アメリカのトランプ次期大統領はロシアとの関係改善を図っていますが、だからと言ってこうした日露の動きを追認するとは限りません。

 さらに、日本国内には今回の首脳会談について不満の声もあります。安倍首相が対応を誤れば、国内世論が沸騰し、再び交渉が頓挫してしまう恐れもあります。安倍首相には慎重な舵取りと、国民へのしっかりとした説明を行ってほしいと思います。(YN)