青木理 三浦瑠麗氏は差別発言を撤回せよ

蚊帳の外に置かれる日本

 北朝鮮の要人が中国を電撃訪問しました。金正恩朝鮮労働党委員長か実妹の金与正氏ではないかという見方もなされています(3月27日 朝日新聞)。もしこれにより北朝鮮と中国の関係改善が進むなら、日本だけ蚊帳の外ということになります。

 日本が北朝鮮との対話に踏み切れない理由の一つは、朝鮮半島に対して差別意識を持っているからだと思います。これは国際学者の三浦瑠麗氏の「スリーパー・セル」発言からも明らかです。この差別意識を克服しない限り、日本は国際社会から取り残されることになるでしょう。

 ここでは弊誌4月号に掲載した、ジャーナリストの青木理氏のインタビューを紹介します。全文は4月号をご覧ください。

「差別の意図がなければ問題ない」は通用しない

―― 国際政治学者の三浦瑠麗氏が、日本には「スリーパー・セル」と呼ばれる北朝鮮の「テロリスト分子」が潜伏している、「特に大阪がヤバイ」といった発言をしました。これは在日コリアンへの差別を助長する発言として批判されています。青木さんは『日本の公安警察』(講談社)でテロなどを取り締まる公安警察について詳細に描いていますが、三浦氏の発言をどう見ていますか。

青木 愚かな発言です。私が公安警察を専門に取材していたのはずいぶん前のことで、現在の公安がどのような動きをしているか詳しくは知りませんが、少なくとも「スリーパー・セル」などという言葉を公安関係者から聞いたことはありません。念のため知り合いの公安当局者に尋ねてみましたが、やはりそんな単語は聞いたことがないと言っていました。「大阪がヤバい」というのも初耳。おそらくは一知半解の妄想か、調子に乗って適当なことを口走ってしまったのでしょう。

 ただ、その悪影響は侮れません。彼女は在日コリアンを差別する意図はなかったと言い訳しているようですが、言うまでもなく大阪は在日コリアンの多い街ですから、そうした軽率な発言をメディアですれば、差別や偏見が煽られるのは明々白々です。

―― 三浦氏は自分は在日コリアンがテロリストだとは言っておらず、そういう見方をする人こそ差別主義者だと反論しています。つまり、自分には差別の意図はなかったのだから問題ないという言い分です。

青木 ばかげた屁理屈です。原則論から言えば、ある言動が差別に当たるかどうかは、受け手がどう捉えるかによります。いくら発信者に差別の意図がなくとも、相手が差別だと受け止めれば、それは差別です。そして実際、多くの人びとが彼女の発言にそうした懸念を抱き、強く批判しているわけです。

 まして昨今は、在日コリアンに対して公然とヘイトスピーチをがなりたてる連中が跋扈し、それを助長するようなヘイト本やヘイト記事が巷に溢れかえっています。現政権も、そうした風潮を明らかに追い風としています。こうした社会状況から考えても、原則論から言っても、自分に差別の意図がなければ問題はない、という言い訳は通用しません。

 残念ながら、自らと異なる者たちへの差別や偏見といったものは、人間の中に本能としてある獣性のようなものです。だからこれは、一度燃え広がってしまうと容易に消すことができず、教育や理性の力できちんと制御しておかなければなりません。獣性が暴走してしまった結果としての惨劇は、歴史的にも数々記録されてきています。少なくとも「国際政治学者」を名乗る知識人ならば、軽率な発言が差別や偏見を煽ってしまうことへの想像力を持つべきでしょう。

 そもそも彼女は、討論番組などで〝上から目線〟的にもっともらしい屁理屈を並べ立てるのを〝芸風〟にしているようですが、今回の発言はどう考えても問題です。多少なりとも真っ当な感覚を残しているのなら、お得意の屁理屈で言い訳するのではなく、謝罪して発言を撤回すべきでしょう。……

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