山田正彦×郭洋春 TPP参加を必ず阻止する! 

TPPは農業だけの問題ではない。食品や医療、保険、果ては自動車の安全基準まで、それは国民生活に直結する問題である。TPPに参加すると日本は一体どうなるのか。それには米国とのFTAに批准した、お隣の国・韓国の現状が参考になる。本稿では、前農林水産大臣の山田正彦議員と、アジア経済の専門家である郭洋春・立教大学教授に、韓国経済の実情も踏まえてTPPについて多面的に語っていただいた。

アメリカ国民の大半がTPP反対だ

―― 1月8日、山田議員は「TPPを考える国民会議」米国調査団の団長として訪米し、アメリカ政府関係者や業界団体らとTPPについて情報交換をされた。アメリカではTPPについてどのように考えられているのか。

山田 まず、はっきりと申し上げておく必要があるが、民主党政府はTPPに参加するとは表明していない。あたかも日本がTPPに参加することが決定事項であるかのごとく国内や海外で報道されているが、それは間違っている。

 野田総理も国会で、交渉参加を前提としない事前協議であると述べている。しかも、国会議員の365人がTPP反対の国会請願を出している。おそらく日本がTPPを批准することはない。私はアメリカの政府関係者に対してもそのように述べてきた。

 さて、私は訪米するまで、アメリカは国を挙げてTPPに賛成しているかと思っていた。しかし、現地に行き、それが間違いであることがわかった。アメリカではTPP以前に、FTAなどの自由貿易そのものに対する不信感が強くなっているのだ。

 2010年9月に行われたNBCニュースと『ウォールストリートジャーナル』の世論調査によれば、69%のアメリカ人が「米国と他国のFTAは米国の雇用を犠牲にしている」と答えた。その一方で、FTAがアメリカに利益を与えてきたと答えたのは、たったの17%であった。

 このような世論の反応はあまりにも当然のことだ。というのも、彼らには自由貿易協定について苦い経験があるからだ。

 アメリカにとっては、自由貿易協定はTPPやFTAが初めてではない。カナダとメキシコとの間で結ばれ、1994年に発効されたNAFTAがその始まりである。

 しかし、NAFTAはアメリカ国民にとって何一つプラスにならなかった。NAFTAは、アメリカがカナダやメキシコから富を収奪する仕組みであると考えられているが、NAFTAで利益を得たのは多国籍企業などの大企業だけだ。アメリカ国内の企業が賃金の安い労働者を求めて工場をメキシコに移すといったことが頻発し、アメリカ国内で100万人の雇用が失われたと言われている。

 米韓FTAやTPPによってアメリカ国民の雇用が奪われるのではないか、一部の大企業が儲かるだけではないのか――こうした不信感がアメリカの一般国民の間で広がっている。ウォール街占拠運動もその表れであろう。

 オバマ大統領もそうした世論の動向に気づいている。オバマ大統領は年頭教書演説で、TPPについて直接言及していない。TPPが次の大統領選で有利に働かないとわかっているからだ。

 反対しているのは世論だけでない。アメリカ議会の中にも反対派はいる。リード農水委員長は、TPPはアメリカの農業にとって有利と言われているにも関わらず、反対派である。ピーターズ下院議員は14名のTPP反対の署名を集めて大統領に申請書を出している。上院でも30名の署名を集めている方がいた。

 要するに、アメリカでTPPに賛成しているのは、大企業と、その意向をくんだ政治家たちだけなのだ。それは日本で経団連がTPPを強く推進しているのと同様である。

 TPPの危険性については、先に結ばれた米韓FTAを見ればよくわかる。実際、アメリカのマランティス次席通商代表やカトラー通商代表補に対して、TPP交渉においてアメリカは日本に何を求めるのかと尋ねると、米韓FTAを見てください、日本に求めるものがそこに書かれている、と言われた。

 また、アメリカ国務省からは、米韓FTA以上のハイレベルなものを求めると言われた。

 このように、TPPの是非について判断するためには、日本国民は米韓FTAがどのようなものであるかということをしっかりと認識する必要がある。

韓国の国家主権はアメリカに奪われた

―― そこで郭教授にうかがいたい。米韓FTAは不平等条約とまで言われている。米韓FTAは韓国にとってどのようなものなのか。

 韓国は米韓FTAによって、国家主権を維持できるかどうかの瀬戸際に立たされることになった。今後FTAが発効されれば、韓国国内でアメリカの企業が自由に振舞い、韓国国民が築いてきた国富が奪われる危険性がある。

 具体例をあげると、外国人投資家による韓国企業の買収が加速する可能性が高い。現在、韓国の上場企業の時価総額のおよそ3割は外国人投資家によって握られている。これを3割程度で抑えることができているのは、公正取引法によって外国人投資家の株式保有の上限が定められているからだ。

 しかし、米韓FTAによって、この上限が撤廃されることになった。それが外国企業の自由な活動を阻害していると判断されたからだ。これにより、外国人投資家は韓国企業の株式を100%保有することができるようになる。

 韓国人が育ててきた韓国企業の富が、株式配当という形で外国人投資家に巻き上げられていく。これが果して健全な姿と言えるだろうか。

 また、米韓FTAでは「未来最恵国待遇」が定められている。これは、たとえば韓国が日本とFTAを結び、日本に対してアメリカよりも有利な待遇が提供されている場合、韓国はこれをアメリカにも拡大適用する義務がある、というものだ。

 しかし、自由貿易協定というものは、それぞれの国情や産業の状況に基づいて結ぶものだ。日韓間ではお互いの利益になるような貿易協定だったとしても、米韓間では韓国にとって大きな損害をもたらす、ということは大いにあり得る。

 しかも、米韓FTAでは、一度合意してしまった規定については、いかなる場合にも元に戻すことができないことになっている。これをラチェット条項という。

 そして、最大の問題点は、日本の国会でも大きな話題となったISD条項だ。ISD条項とは、ある国家に投資していた外国人投資家がその国家の政策により不利益を被った場合、世界銀行傘下の国際仲裁センターという第三者機関に訴えることができる制度だ。

 しかし、世界銀行の総裁は設立以降一貫してアメリカ人が就いている。また、世界銀行の議決事項については、出資の割合で議決の割合が決定されるが、最大の融資国はアメリカで17%を占めている。このように、世界銀行はアメリカの大きな影響下に置かれているのだ。

 実際、NAFTA内で起きた紛争事案46件の内、アメリカ政府は15件の訴えを起こされたが、1件も負けていない。逆に、カナダ・メキシコ政府を訴えたアメリカ企業はいくつかの事案で賠償金を得ている。

 こうしたISD条項について、韓国の司法権を侵奪するものであるとして現職の裁判官が反対運動を起こし、多くの裁判官がこれに同調している。

山田 アメリカでTPPを研究している大学教授に、なぜアメリカはISD条項による裁判に負けないのか、と尋ねてみた。

 その教授の話によると、彼の友人の元国会議員が仲裁員になった時、メキシコ企業がアメリカ政府を訴えるということがあった。その友人はメキシコ企業の訴えに理があると思っていたが、国務省から呼び出されたため、アメリカ政府を勝たせたという。

 このように、ISD条項による裁判は、最初からアメリカが負けないように決まっているのだ。……

以下全文は本誌3月号をご覧ください。