植草一秀 対米自立勢力のせん滅を狙う米国

国民が反対している消費税増税

 8月10日、財務省が悲願としてきた消費増税法案が参院社会保障・税一体改革特別委員会ならびに本会議で採決され、賛成多数で成立した。委員会採決に先立ち、8月6、7日には特別委員会で中央公聴会が開催され、筆者も公述人の一人として招聘され、意見を陳述し質疑に対応した。

 筆者は消費増税法案に反対する立場から意見を陳述した。前号に記述したが筆者が提示した反対理由を要約すると以下の三点になる。

 第一は、野田内閣が強行に推進する消費増税の提案が民主主義の適正手続きに反していること。国民に増税を押し付ける前に「シロアリ」を退治すること。天下りやわたりなどの官僚利権を切ることが民主党の公約だった。

 第二は、日本は現段階で財政危機に直面しておらず、現下の財政赤字拡大に巨大増税で対応することがマクロ経済政策として間違っていること。日本政府の債務は1000兆円規模に達するが資産はこれを上回っており、政府債務危機が発生するリスクはゼロに近い。数年来の財政赤字急増はサブプライム危機を契機とする世界不況に原因がある。

 不況で拡大した財政赤字を増税で削減することはマクロ経済政策として間違っている。正しい手順は景気回復を誘導して不況による財政赤字拡大を取り除き、そのうえで増税等の構造対策を検討することだ。

 第三は、消費税の持つ構造的欠陥が重大であること。消費増税を価格に転嫁できない事業者は、納税額増加分の一部または全部を自己負担せざるを得なくなる。この場合、この消費税は消費者が負担する税でなく零細事業者が負担する税となり、租税制度として消費税が重大な構造的欠陥を有することになる。

マスメディア申し合わせによる消費増税問題封印

 国会が公聴会を開いたところで、国会審議には何らの影響も与えない。一種のセレモニーに過ぎないわけで、法案採決の段取りが整ったとのことで採決され、成立した。通常は国会での法律成立は最終決定で、あとは、その実施の日取りを待つだけである。

 しかし、消費増税問題では事情がまったく異なる。なぜなら、主権者である国民は消費税増税を現段階でまったく認めていないからだ。認めていないというより、反対の姿勢を示している。消費増税は直近二度の国政選挙の最重要争点になり、主権者国民は明確に「消費増税NO」の意思を示してきた。

 野田佳彦氏は、この「民意」を踏みにじって消費増税法を成立させたのであり、この点がまさに議会制民主主義の適正手続き違反に該当する。ただ、残された救いは、増税実施の前に衆参両院で本選挙が行われることだ。本来の手順には反するが、主権者国民は、この選挙で消費増税問題について、最終判断を示さなければならない。

 したがって、国会が消費増税法を成立させてしまった時点から、主権者国民が本格的な消費増税論議を開始して、その是非を掘り下げる必要がある。この国民論議を喚起するのがメディアの本来の役割である。ところが、権力機構の走狗に成り下がってしまっている大半のマスメディアは、国民論議を喚起せずに、国会決定をあたかも最終決定であるかのように報道し、消費税問題を一切伝えなくなっている。

 辛うじて東京新聞や北海道新聞などの地方ブロック紙が代議制をないがしろにしている野田政権の行動を厳しく批判しているだけなのが現状だ。

 実際、参院で法案が可決された8月10日以降の状況を見ると、この採決日程が意図的にロンドンオリンピックの開催中に設定されたとの見方を裏付けるように、消費増税法成立報道はオリンピックの熱狂にかき消された。そして、これと足並みを合わせるかのように、尖閣列島、竹島の騒ぎがメディア情報空間を埋め尽くしたのである。……

以下全文は本誌10月号をご覧ください。