三橋貴明 「亡国の農協改革」を食い止めよ

食糧安全保障を破壊する農協改革

―― 三橋さんは新著『亡国の農協改革』(飛鳥新社)で、安倍政権の農協改革を批判されています。

三橋 安倍政権の進める農協改革には主に5つの問題点があります。第一に、全農(全国農業協同組合連合会)の株式会社化への道筋がつけられたことです。全農は、農業の基礎研究や技術開発、飼料や肥料の提供、営農支援、農産物の流通など、いわゆる経済事業を手掛けています。もっとも、全農は協同組合であるため、組織の目的は組合員への貢献であり、利益の最大化ではありません。それ故、彼らがアコギな利益をとるようなことはありませんでした。

 この全農を目障りに感じていたのが、アメリカのカーギル社を始めとする穀物メジャーです。彼らが利益を上乗せしたいと考えても、全農がいるためにそれができませんでした。過剰に利益を上乗せすれば、全農との市場競争に負けてしまうからです。また、全農は遺伝子組み換え作物(GMO)についてIPハンドリング(分別生産流通管理)を実施しています。そのため、穀物メジャーも同じサービスを行わなければ、市場競争に勝つことができません。

 それ故、彼らは何とかして全農を買収して傘下に入れようと考えていました。しかし、全農が協同組合である限り、それは不可能です。ところが今回の農協改革により、全農は任意で株式会社化しても構わないことになりました。このままでは、全農は将来的には外資系になってしまうでしょう。そうなれば、穀物メジャーは暴利をむさぼり、日本へGMOをどんどん出荷してくるはずです。

 第二に、農林中金(農林中央金庫)やJA共済の金融市場に、将来的にアメリカ金融業界が参入するための布石が打たれたことです。農協の金融ビジネスは一般の金融機関とは異なり組合員同士の相互扶助を目的としているため、参入規制を行っています。アメリカの金融業界はこの巨大なマーケットに参入したがっていました。そのため、アメリカは農林中金とJA共済について、規制を緩和して他の金融機関と同一の競争条件(イコールフッティング)が成り立つようにすべきだと主張し続けてきたのです。

 第三に、農協の「准組合員」の利用について、今後5年間で実態調査を行い、改めて措置を決定することになったことです。農協の組合員は、農家ではない准組合員数が農家である正組合員数を上回っています。准組合員とは、一定の出資金を支払うことで農協系のサービスを利用している人たちのことです。農協の金融ビジネスは、多くの准組合員がいるからこそ成り立っているのです。

 農協は経済事業の赤字を信用事業や共済事業でカバーすることで、全体として帳尻を合わせています。それ故、准組合員の利用が制限されるようになれば、農林中金とJA共済の利益が激減し、農協は倒れてしまいます。

 農協は株式会社ならば赤字を理由に撤退するような地域でも、生活用品の販売や医療サービスの提供などを行っています。これは利益を追及しない協同組合だからこそできることです。農協がなくなれば、その地域は瞬く間に消滅してしまうでしょう。

 第四に、農地法が改正されたことで、農地を所有する株式会社(農業生産法人)について、外国資本でも株式の49・9%まで持てるようになったことです。事実上、日本の農地の外資支配を認めるということに他なりません。外国資本に農地を抑えられると、日本の食糧安全保障は崩壊したのも当然です。

 そして第五に、農業委員会法の改正により、農業委員会の委員が、地元の農業従事者による公選制から地方自治体の首長による任命制へ変わったことです。農業委員会は農地を維持するための制度であり、農地を商業地などに転用するためには農業委員会の認可が必要とされています。

 しかし今回の改正により、例えば市長が株式会社の意向を受け、農協委員会の委員の過半数を自分の息のかかった人間に変えることで、農地を産業用に転用することが可能になるわけです。また、外国資本が農地を利用して不動産ビジネスを行うことも可能です。一旦工場や宅地に転用されれば、再び農地に戻すのは困難です。たとえ農地に戻したとしても、数年間はまともに生産することはできないでしょう。

 以上が、私が安倍政権の農協政策を「亡国の農協改革」と批判する所以です。……

以下全文は、本誌11月号をご覧ください。