鈴木宗男 領土返還を阻む者たち

木村汎氏の「前科」

―― 北方領土問題が解決に向けて動いています。しかし、中にはそれを邪魔するように見える人もいます。

鈴木 まず一部の学者は北方領土問題をビジネスにしています。彼らは北方領土問題が続く限り、メディアからの原稿や、各種団体からの講演など仕事が入ってきますが、実際に問題が解決してしまうと仕事がなくなってしまう。だからこの人たちは、あえて強硬論を振りかざして、わざと問題の解決を遠ざけているように見えます。これが「北方ビジネス」です。

 たとえば北海道大学名誉教授の木村汎氏です。木村氏は11月8日の産経新聞で、「モスクワは……東京から半永久的に対露支援を引き出そうと狙っている」「安倍首相がいま博打に出て全ての有り金をかける必要は少しもない」と主張し、また11月30日の同紙でも「早とちりしてロシアに接近すると日本は百年の計を誤る」「日米同盟の信頼を失うな」と主張しています。

 しかし木村氏は1997年のクラノヤルスク合意のときも、2000年のイルクーツク宣言のときも、「まだ早い」と主張していました。一体いつまで待てばいいのか。再びあと70年も待つのか。今年は1956年の日ソ共同宣言から60年の節目の年で、元島民の方々の平均年齢も80歳を超えています。いま動かさないでいつ動かすというのでしょうか。

 しかも木村氏は具体的な解決策は提示していません。解決策を持たないまま、いずれ時期が来ると解決を先延ばしにするのは、無責任極まりないと思います。

 そもそも木村氏は曰くつきの人物です。『正論』2006年10月号では、元KGBでロシア科学アカデミー東洋研究所研究員のアレクセイ・A・キリチェンコ氏が「コミンテルンと日本、その秘密諜報戦をあばく」という記事を書いています。その中では、「謎の大物大使館員」として、1970年代にソ連の在モスクワ日本大使館に勤務した政治学者、コムラ・ヒサイチ(仮名)の動向が記されています。該当部分を転載します。

 「ソビエトの現実を知るためなら、コムラは通常の違反を前にしても停まることはなかった。たとえば、春のある休日、外国人の立ち入りが許されていない閉鎖地域(ソ連時代には、このような地区があちこちにあった)にある、彼の知人である女性のダーチャ(別荘バンガロー)に行ったことがある」

 「コムラに帰国のときが来た。……コムラは不運だった。シベリアのどこかの駅で、泥棒たちが日本外交官のコンテナを開けたのだった。……開けられたコムラのコンテナの中から、ソ連では国外持ち出しを禁じられている物品が出てきた。特に、当時密輸によってロシアから持ち出されていた時代物のイコンが見つかった。また、数冊の反ソ出版物と、なにやら日本語で書かれたメモ類も出てきたという。……コムラのコンテナから出てきた公文書のコピーをいかに扱うか?……一枚一枚に『極秘』というスタンプが押されていた」

 お察しの通り、このコムラ・ヒサイチの正体は木村氏でした。これは私が本人に確認したことです。今年の10月14日、『正論』の企画で私は木村氏と産経新聞本社で対談しました。そのとき、私が「コムラ・ヒサイチはあなたですか」と聞くと、木村氏は「私です。KGBも随分私を大物扱いしたものですね」と答え、「確かに女性とダーチャに行きましたが、年配の女性でしたよ」と付け加えました。木村氏は女性関係、イコンの密輸出、秘密電報の漏えいを認めたということです。

 しかし原稿チェックの段階で、木村氏は「このやりとりは削れ」と言ってきました。私と産経は掲載に向けて調整しましたが、うまく行きませんでした。だから私は「自分に都合の悪いところは載せないというのは公平ではないからボツにしましょう」と言って、これは幻の対談となったわけです。

野田幹事長よ、「馬鹿も休み休み言え」

―― 鈴木宗男事件にも関わった新潟県立大学の袴田茂樹教授はどう見ていますか。

鈴木 袴田氏も9月6日の産経新聞で安倍政権の前向きな姿勢を「楽観的思い入れ」とした上で、「この状況では異なった意味で『従来の発想にとらわれない新アプローチ』の対露政策にその熱意を向けるときではなかろうか」と批判しています。しかし袴田氏は「異なった意味での新アプローチ」とは何なのか言っていません。これは無責任ですよ。

 袴田氏は父と伯父、妹が共産党員で、本人もソ連時代にモスクワ大学に異例の留学をしていたことから、どういうルートで留学できたのか首を傾げる向きもあります。

 昔、こういうことがありました。1998年に秋野豊国連政務官が公務中に亡くなられたあと、袴田氏は秋野基金の設立に動いていました。そのとき、袴田氏は当時内閣官房副長官だった私の官邸執務室を訪ね、「外務省に掛け合っているのですが、予算を500万円しか出さない。何とかしてください」と頼んできました。私は外務省によく話を聞いてやるように言いました。その後、袴田氏は外務省から5000万円ほどの予算を引き出して、「秋野豊ユーラシア基金」を設立して役職に就いていました。それを見ていた私は「学者より総会屋の方が向いているのではないか」と思ったものです。

―― 学者だけではなく政治家も問題です。鈴木さんは民進党の野田佳彦幹事長の主張を批判しています。

鈴木 野田氏は10月24日の朝日新聞で、「仮に、国後、択捉、歯舞、色丹の4島のうち、歯舞と色丹の2島が返還されるとしましょう。これは全体の半分を返すという話ではありません。この2島の面積は、4島全体の約7%にしかすぎないのです。すなわち、約70年前に100万円を奪ったロシアが、今ごろになって7万円だけは返してやるよと言っているのと同じです。馬鹿も休み休み言えってところです」と述べています。

 間違ってなったとはいえ、仮にも総理大臣経験者がロシアを「強盗」に例えるなど言語道断です。何様のつもりなのかと眉を顰めざるをえない言いぶりですよ。……

以下全文は本誌12月号をご覧ください。

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