権力基盤が揺らぐ安倍政権
朝日新聞の森友文書書き換え報道によって、安倍政権の権力基盤が大きく揺らいでいます。もっとも、安倍政権下ではこれまでにも今回と同じように重大な問題が何度も起こってきました。それにもかかわらず安倍政権が継続してきたのは、マスコミが厳しい報道をしてこなかったからです。その原因の一つは記者クラブ制度にあります。
ここでは、弊誌3月号に掲載した、東京新聞の望月衣塑子氏のインタビューを紹介します。全文は3月号をご覧ください。
権力から情報操作された経験
―― マスコミが批判されるときに必ずと言っていいほど指摘されるのが記者クラブ制度の問題です。望月さんは現役記者として、記者クラブの功罪についてどのように考えていますか。
望月 私はこれまで司法記者クラブや防衛省記者会などの記者クラブに所属してきましたが、権力中枢に食い込んだ取材、特に省庁の上層部への取材などは記者クラブに属していないと難しいというのが実情です。フリーになった人たちの話を聞くと、会社の名前がないと取材に応じてくれないところも多いといいます。私が菅官房長官の会見に月曜から金曜までの間で質問ができるのも、記者クラブに属し、かつ政治部から会見への出席を許してもらっているからです。
しかし、記者クラブにいると、どうしても権力との距離が近くなり、権力の代弁者になってしまう恐れがあります。振り返ってみると、私も日本歯科医師連盟(日歯連)の迂回献金問題を追っているとき、それこそ巨悪に立ち向かうといった思いで取材していたため、権力に向かっていく東京地検特捜部をある意味で応援していました。自分としては正義感をもってやっているつもりでしたが、どこか権力と一体化してしまっていた部分もあったと思います。
また、小沢一郎氏をめぐる陸山会事件を取材していたときも、特捜の幹部から聞かされる生々しいブツの情報やお金の流れに食いついてしまいました。いまにして思うと、普段私を呼びつけたりしない幹部がわざわざ事件について説明してくれるなど、不自然なところがありました。権力側からいいように情報操作されてしまっていた部分もあったと思います。実際、陸山会事件では検察の捜査に問題があったことがわかっていますし、小沢氏も無罪になっています。
記者クラブに属している記者たちは、他の記者よりも早くスクープを抜けるかどうかという競争をしています。そのため、スクープを抜くことにばかり意識が向いてしまい、自分たちがアクセスしている権力の監視が疎かになってしまっている側面もあるのではないでしょうか。
これは記者クラブから離れたところにいる人ほどよく見えることです。たとえば、ニューヨーク・タイムズのマーティン・ファクラー記者と話をしていると、特捜部は民主党政権時代には鳩山由紀夫総理や小沢氏に対してあれほど熱心に捜査をしていたのに、なぜ小渕優子氏や甘利明氏、森友問題などについてきちんと捜査をしないのか、なぜ司法記者クラブはそうした観点から捜査に対する問題提起をしないのか、と言われました。
私もいまは司法記者クラブから離れているので、民主党政権時代の特捜部の熱気はなんだったのか、なぜ現在の特捜部は当時と比して、与党・自民党への切り込みが弱くなったように見えるのか、と疑問を感じますが、当時はそのような意識は持てていなかったように思います。……