天皇陛下の誕生日に思う

「おことば」を真剣に受け止めよ

 12月23日に天皇陛下は83歳の誕生日を迎えられました。これに先立って行われた記者会見で、天皇陛下は8月に表明された「おことば」について次のようにおっしゃっています(宮内庁HPより)。

 8月には,天皇としての自らの歩みを振り返り,この先の在り方,務めについて,ここ数年考えてきたことを内閣とも相談しながら表明しました。多くの人々が耳を傾け,各々の立場で親身に考えてくれていることに,深く感謝しています。

 我々はこれを機に、改めて天皇陛下の「おことば」を真剣に受け止める必要があると思います。ここでは、弊誌12月号に掲載した、毎日新聞編集委員の伊藤智永氏のインタビューを紹介したいと思います。

安倍政権の対応は不誠実極まりない

── 「『天皇制』再定義への問いかけ」(サンデー毎日)を執筆した伊藤さんにお話を伺いたい。

伊藤 初めに、私は毎日新聞に勤めていますが、今回のお話は私個人の見解だとお断りしておきます。

 まず私は政府の対応について「それはないだろう」と感じています。安倍政権は発足後から宮内庁から陛下のご意向を伝えられていました。しかし、今年になって陛下は自ら「お気持ち」を表明されました。そうなった以上、これまで官邸は宮内庁に聞く耳を持っていなかったと言われても仕方がありません。

 私が取材した限り、官邸は「しまった!」と感じたようですが、お気持ち表明後の対応も非常に事務的です。厄介事が持ち込まれたから、面倒臭がりながら事務処理をしているという印象です。

 たとえば安倍政権は有識者会議を設置しました。しかし当初、官邸周辺は有識者会議の設置に否定的で、政権に近い読売新聞と産経新聞も「有識者会議は設置しない」と報道していました。おそらくとっさに民主党政権時代の女性宮家に関する有識者会議を連想して、「有識者会議は面倒だ」と感じたのでしょう。

 そもそも安倍政権は消費増税の際も有識者会議を開きましたが、真剣な議論を戦わせるためではなく、世論へのアピールにすぎませんでした。今回の有識者会議はそれと全く同じやり方です。

 ヒアリングの対象者の人選は、生前退位に否定的な人たちに厚く配慮している気がします。16人のうち大まかには賛成派9人、反対派7人くらいの比率を狙っているのでしょうが、各人が重視する論点によって賛成派の中に一部異論や慎重論が含まれているように聞こえるので、専門家の意見は分かれているという印象を与えるかもしれませんね。いずれにせよ、9勝7敗くらいなら収まり所がいいだろうという思惑が透けて見えます。陛下の問いかけはそんなに軽いものだったのかと呆れます。

 さらに官邸は9月下旬に宮内庁長官の風岡典之氏を更迭し、22年ぶりとなる警察庁出身の西村康彦氏を次長として送り込みました。官邸は陛下のお気持ち表明に対して、懲罰人事で応えたわけです。

 しかし有識者会議が第一回ヒアリングを行う11月7日、当の西村次長が定例記者会見で、「陛下のご意向もあり、宮内庁として減らすのは難しいと考えている」と述べたのです。陛下が官邸から送りこまれた次長を通じて改めて強いご意向を表されたというのは、尋常ではありません。

── 保守とされる安倍政権には畏れが感じられません。

伊藤 ある有力政治家の話ですが、彼が官邸の総理執務室で安倍さんと生前退位の話をしたら、安倍さんはカーペットに膝をつきながら、「こんな格好までしてね」と言ったらしいのです。ちょっと何て言うか、天皇陛下が被災者の方々に寄り添うお姿を、そういう風にちゃかしてみせるというのは……。信じがたいですね。

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