日本国民は北方領土二島返還を受け入れるか

二島返還はほぼ確実

 昨日14日の日ロ首脳会談により、日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることが合意されました。これでよほどのことがない限り、北方領土の二島返還はほぼ確実になったと言っていいと思います。

 朝日新聞(11月15日付)は安倍政権が従来の四島一括返還から二島先行返還へ方針転換したと報じていますが、これは間違いです。日本政府はすでに1991年10月に「北方四島に対する日本の主権が認められるならば、実際の返還の時期、態様、条件については柔軟に対処する」として、四島一括返還を取り下げています。

 プーチン大統領は今年9月に安倍首相に対して、一切の前提条件なしに今年末までに平和条約を締結しようと提案しました。しかし、安倍首相は領土問題を解決し、平和条約を締結するという立場を示し、それを拒否しています。産経ニュース(11月14日付)によると、安倍首相は今回の会談でも「北方四島の帰属の問題を解決し、平和条約を締結する」という日本政府の方針を改めて説明し、プーチン大統領も理解を示したといいます。

 もっとも、これはプーチンにとってはアプローチの違いであって、本質的な問題ではありません。日ソ共同宣言9項には「ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」とあります。つまり、平和条約が締結されれば、歯舞群島と色丹島の二島は日本に返還されるということです。

 そのため、先に平和条約を締結して日ソ共同宣言に基づいて二島返還を実現しようが、まず領土問題を日ソ共同宣言に基づいて二島返還という形で解決して平和条約を締結しようが、結果的には同じことです。だからこそプーチンも理解を示したのでしょう。
 
 問題は、今回の交渉によって国後島・択捉島が日本に返還される可能性はほとんどないということです。日本国民がそれを受け入れるかどうかが今後の焦点となるでしょう。

 ここでは弊誌2016年12月号に掲載した、元外務省主任分析官の佐藤優氏のインタビューを紹介します。ウェブサービスnoteにご登録いただくと、この記事を100円で全文読むことができます。noteの登録は無料です。是非お試しください。

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二島返還で対露感情は大きく改善する

―― 保守派は日露交渉に不満を持っているはずです。それは、日本にはソ連に侵略された歴史があるからです。彼らが四島一括返還にこだわるのもそのためだと思います。

佐藤 確かソ連は日ソ中立条約を侵犯して対日戦争に踏み切りました。しかも、ソ連側が電報封鎖したため、日本はソ連の宣戦布告書を受け取るのが1日ちょっと遅れています。つまり、我々は1日ちょっとの間、「闇討ち」にあったということです。

 しかし、日本があの戦争で敗れたということは厳粛な事実です。そして、日本は国際社会に復帰するために調印したサンフランシスコ平和条約によって、国後島と択捉島を放棄しているのです。そのため、国後・択捉に対する日本の立場は弱いのです。

 これは当時の日本政府自身が認めていることです。1951年10月19日の衆議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会において、西村熊雄外務省条約局長はサンフランシスコ平和条約で放棄した千島列島の範囲について問われ、「北千島と南千島の両者を含むと考えています」と答弁しています。ここで言う南千島とは、国後島と択捉島のことです。

 ところが、ソ連がサンフランシスコ平和条約に調印しなかったため、日本政府はソ連との関係においてサンフランシスコ条約は有効ではないとして、国後島と択捉島の返還を求めるようになりました。この時、「我々は国後・択捉をいったん放棄したけれども、ソ連がサンフランシスコ平和条約に調印しなかったので、もう一度要求することにした」と言えば、嘘にはなりません。しかし、1956年に森下國雄外務政務次官が「日本は国後島と択捉島を放棄したことがない」と答弁し、あたかも一度も放棄したことがないかのように振る舞うようになったのです。

 これは国際的には通用しない議論です。実際、日本政府はかつて、サンフランシスコ条約の当事者であるアメリカとイギリスに、日本が四島を放棄していないことについて確認を求めたことがあります。これに対して、アメリカからは四島は日本のものだという回答が来ました。イギリスからも回答が来ましたが、その内容は未だに公表されていません。イギリスが北方領土に対する日本の立場を一度も支持したことがないことを考えれば、その回答内容は明らかです。それだから、もし国後島と択捉島の帰属について国際司法裁判所で争えば、日本は負けます。

 私としては、日本政府はこれ以上、国際的に通用しない説明を繰り返すべきではないと思っています。それは国民を無用に混乱させるだけです。日本政府は国民に対して、1951年に国後島と択捉島を放棄したという事実をきちんと伝えるべきです。……

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