『月刊日本』2020年12月号の紹介

「権力との対決」こそメディアの使命

 本誌12月号は本日22日より店頭販売を開始しております。

 冒頭の特集は「『権力との対決』こそメディアの使命」です。菅政権は日本学術会議問題をめぐって多くの批判を浴びていますが、この問題の中心にいるのは警察官僚出身の杉田和博官房副長官です。つまり、これは学問の自由や言論の自由に警察が介入してきたということなのです。

 ジャーナリストの青木理氏は杉田氏が警備公安部門出身であることに注目しています。もともと警備公安部門は体制擁護的な傾向が強く、「自分たちこそ体制や治安を脅かす者から国家を守っている」と考え、危険だとにらんだ組織や人物を日常的に監視しています。

 彼らは安倍政権以降、政治色を強め、どんどん政治警察化していきました。今回の学術会議問題もそのあらわれです。彼らは政権にまつろわぬ学者を「取り締まる」ことを狙っていたわけです。これが青木氏の見立てです。

 安倍政権のときと同様、メディアと政権の距離も問題です。菅政権は番記者たちと「パンケーキ懇談会」を開いたり、共同通信論説副委員長の柿崎明二氏を首相補佐官にするなど、メディアへの揺さぶりを強めています。

 新聞労連委員長から朝日新聞政治部に復帰した南彰氏は、オフレコで特ダネをとってくることを重視するメディアのあり方が、メディアが政治のペースに飲み込まれてしまう状況を生み出していると指摘しています。そこで、南氏は、メディアは記者会見の場で権力をしっかり監視することを重視すべきだと提案しています。

 新型コロナウイルスの新規感染者数が増え続ける中、菅総理はぶら下がり取材には応じているものの、記者会見を開こうとしません。それだけ菅総理は記者会見を恐れているということです。いまや記者会見こそメディアの主戦場なのです。

混迷を極めるアメリカ

 今月号ではアメリカ大統領選挙に関する特集も組みました。民主党のバイデン前副大統領が勝利宣言を行いましたが、トランプ大統領は敗北を認めず、両陣営やその支持者たちは非難合戦を繰り広げ、陰謀論まで飛び交っています。

 京都大学名誉教授の佐伯啓思氏は、アメリカがここまで混乱に陥ってしまった原因の一つは、アメリカの民主主義にあると見ています。もともと民主主義は、対立者と非難合戦を繰り広げたり、デマゴーグが出現したりする構造を抱えています。それは、古代ギリシャの民主主義がソクラテスを死に追いやったことからもわかります。そこから考えると、アメリカの民主主義は機能していないのではなく、機能しすぎているのです。

 アメリカの現状に関して、日本のメディアでは「アメリカが分断されている」といった議論がなされています。これに対して、『宗教問題』編集長の小川寛大氏は疑問を呈しています。アメリカの分断はいまに始まった話ではなく、建国当初から分断されていました。だからこそ、過去には南北戦争のような内戦まで起こっているのです。アメリカを一つの国と見ることが、そもそも間違いだということです。小川氏は近く『南北戦争 アメリカを二つに裂いた内戦』(中央公論新社)を出版予定です。

 また、今月号では元自民党幹事長の石破茂氏と東京工業大学教授の中島岳志氏に対談していただきました。石破氏はこの対談の中で、普段あまり表にならない政治家としての世界観やヴィジョンを語っています。

 さらに巻末の「著者に聞く」というコーナーでは、秋吉久美子氏『秋吉久美子 調書』(筑摩書房)についてインタビューを行っています。

 その他にも読み応えのある記事が満載です。ご一読いただければ幸いです。