斎藤やすのり 外務省と大新聞が隠すACTAの危険性  

法定損害賠償と著作権侵害の非親告罪化を迫られる日本

―― 「偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)」が九月六日の衆議院本会議で可決された。この協定は、権力によるネット言論の監視を招き、憲法で保障された言論の自由を奪う危険性があると指摘されている。ところが、野田政権は国民に協定の本質を知らせることなく採決を強行した。

斎藤 野田佳彦総理の問責決議案が採択され、野党が審議拒否をしているにもかかわらず、政府は極めて慎重に審議すべきはずのACTAを強行に採決した。

 日本国民には中国の偽造品や海賊版などを取り締まることは大事なことだという認識があるため、外務省は「偽造品と模倣品を取り締まる」という部分のみを強調し、中身が知的財産権の権利と保護強化であることをしっかり伝えていない。国会議員に協定の中身が周知されていない状況で、採決が強行されたのだ。

 野党が欠席した場合は国際条約などの採決は行わないというのが不文律だ。一九六〇年五月に、岸信介政権は野党議員欠席のまま、新日米安保条約を単独可決したが、それ以来条約を単独可決するようなことはなかった。今回のACTA採決でそれが破られた。議会制度の根幹を踏みにじるものだ。

 国民生活・きづなの会派としては、問責が可決されたので、野田内閣が提出してきた法案、条約については欠席しなければいけないが、私はどうしても反対の意思を示さなければという思いで、一度議場を出てから協定採決時に戻り、反対票を投じた。

 ACTAは二〇〇八年から交渉が行われ、二〇一一年十月には日本、米国、オーストラリア、カナダ、韓国、シンガポール、ニュージーランド、モロッコの八カ国が署名した。二〇一二年一月にはEUとEU加盟二十二カ国も署名した。ACTAは交渉が秘密裏に進められていたが、ウィキリークスによって内容が暴露されたことから、欧州では反対論が強まり、二百五十万人のデモが発生、欧州議会で七月、圧倒的多数で批准が否決されている。それにもかかわらず、日本では十分な情報提供も、審議もないまま可決されてしまったのだ。

―― ACTAのどこが問題なのか。

斎藤 協定に日本の社会にはなじまない「法定損害賠償」、「著作権侵害の非親告罪化」などが盛り込まれている点だ。通常の損害賠償は、著作権侵害で権利者が被った実損害分しか賠償を求められない。これに対して、「法定損害賠償」は、実損害の有無の証明がなくても、裁判所が賠償金額を決められる。そして、「著作権侵害の非親告罪化」が極めて重大な問題だ。現在、著作権侵害は著作権者などの被害者が告訴しない限り、刑事責任を問えないが、非親告罪化されれば、被害者が告訴しなくても刑事責任を問えることになる。

 外務省は、「職権による刑事上の執行」を規定したACTA第二六条に関しては、「著作権の非親告罪化を義務付けるものではない」との立場をとっているが、この条文は、加盟国当局が職権で捜査、起訴できるようにする義務を負うと読むことができ、「立法による非親告罪化が義務づけられる」と理解できるとの法律家の指摘もある。

反体制派の言論封殺に利用される危険性

斎藤 ACTAの重大な問題は、著作権侵害を監視するという名目で、権力側が恣意的にネットの言論を監視できるようになる危険性があることだ。

―― 実際、四月にブログで千葉県流山市を批判していた市民が、名誉毀損などではなく、同市役所のホームページの内容を無断で転載したことによる著作権侵害容疑で逮捕されるという事件もあった。

斎藤 チュニジアのジャスミン革命、「アラブの春」において、ソーシャルメディアの果たした役割は極めて大きかった。東日本大震災以降、原発報道をめぐる大手メディアへの不信感も強まり、ネット言論の役割が国内でも注目されるようになり、ソーシャルメディアが脱原発や反TPPの抗議行動を拡大させてきた。権力側にとってその力の拡大は脅威なのだ。著作権侵害の名のもとに、ネットの言論を監視したいという意図を持っても不思議ではない。ACTAが反体制派の言論を封殺することに利用される危険性があるということだ。……

以下全文は本誌10月号をご覧ください。