河合弘之 川内原発を直ちに停止せよ 

川内原発を直ちに停止せよ

―― 河合さんは熊本地震の発生から数日後、原子力規制委員会を訪れ、川内原発停止の申し入れを行っています。

河合 まず結論として、政府と九州電力は直ちに川内原発を止めるべきです。川内原発は中央構造線(本州から九州を横断する巨大な断層)を掠めるところに建っており、実際に近くで地震も起こっています。今でも余震が続いていることを考えれば、原発事故の危険性が高まっていることは誰の目にも明らかです。

 ところが、九電は未だに「大丈夫だ」と言っています。彼らは火山の異常を察知した場合には、空振りも覚悟で原発を止めて使用済み核燃料を運び出すと言っているのに、地震の場合は本当に危なくなるまで止めないと言っているのです。矛盾していると言わざるを得ません。

―― 福島第一原発事故の際には、免震重要棟が事故対応の拠点となりました。免震重要棟は免震構造を持っているため、緊急時にも対応することができます。しかし、川内原発には免震重要棟がありません。

河合 原子力規制委員会は、再稼働の要件として「免震重要棟など耐震性のあるものを設置する」と定めています。そのため、九電は川内原発再稼働の許可を求める際に、免震重要棟を作ることを約束しました。ところが、彼らは再稼働後に、免震重要棟の建設をやめると言い出したのです。これは約束違反ですし、一種の騙しです。

 彼らが免震重要棟の建設をやめた理由は、単純にお金がかかるからです。確かに免震重要棟の設置にはうんとお金がかかります。しかし、それなら最初から約束などしなければよかったのです。

 規制委員会も規制委員会です。騙されて怒らないなんて、どうかしています。彼らは馬鹿にされているんですよ。ここで規制委員会が怒らなければ、電力会社は今後も同じ手を使うはずです。

―― もし九電が免震重要棟の設置を約束しなければ、川内原発を再稼働できなかった可能性はありますか。

河合 あると思いますね。少なくとも再稼働は大幅に遅れたんじゃないですか。

―― 九電が約束を反故にしてまで川内原発を再稼働した理由は何だとお考えですか。

河合 それは結局、自分たちの利益のためです。川内原発の1号機と2号機を両方とも止めてしまうと、九電は1日当たり3億円の損をすると言われています。そのような状況が続けば、株主に配当することが難しくなってしまいます。彼らはわずか数万人の株主の利益と1億3千万人の日本国民の利益を天秤にかけ、たとえ国民に危険が及ぶ可能性があったとしても自分たちや株主の利益を優先することにしたのです。とんでもない意思決定だと思います。

 最近の日本では「今だけ金だけ自分だけ」という風潮が強くなっています。その風潮が最も凝縮した形で表れたのが、九電による川内原発の再稼働なのです。まさに悪しき資本主義の病理と言えます。

司法そのものを否定する裁判所

―― 鹿児島県は川内原発の事故を想定して避難計画を策定しています。しかし、この避難計画は杜撰だと批判されています。

河合 鹿児島県の避難計画には実効性がありません。例えば、この避難計画では主にバスに乗って避難することが想定されています。とすると、原発事故が起きて放射能漏れが生じた場合、バスの運転手は放射線量の高いところに突っ込んでいかなければならないということになります。軍隊じゃないのに、そんなこと誰が命令できるのでしょうか。たとえ社長から頼まれたとしても、従業員にはそれに従う義務はありません。

 また、この避難計画では、車を持っている人たちは自家用車で避難するように定められています。しかし、皆が自家用車で避難すれば、あっという間に渋滞になります。実際、福島第一原発事故の時も大変な渋滞が生じました。そもそも熊本地震を見れば明らかなように、地震が起きれば道路が寸断されたり、橋が落ちたりする可能性もあります。車で逃げられるという保証はどこにもありません。

―― 熊本地震に先立つ4月6日に、河合さんも弁護団として関わった川内原発の運転差し止めを求めた即時抗告審について、福岡高裁宮崎支部は申し立てを棄却する決定を出しました。しかし、この決定は、周辺自治体が策定した避難計画の杜撰さなどについては認めています。

河合 さすがの福岡高裁宮崎支部も、こちらの立証の分厚い部分については認めざるを得なかったということでしょう。あの決定は避難計画について、「避難計画がなければ原発は停止しなければならない。また、仮に避難計画があったとしても、それが無いと同じくらい杜撰ならば停止しなければならない。しかし、現在の避難計画は、存在しないのと同じくらい酷いものとまでは言えない」といったことを述べています。こちらの主張をある程度認めながらも、屁理屈をつけて向こうを勝たせているのです。

 また、火山については、「火山の噴火時期などを予測することはできないので、噴火が予想可能であることを前提とした『火山評価影響ガイド』は無効である」としています。「火山評価影響ガイド」とは、規制委員会が策定したガイドラインのことです。「火山評価影響ガイド」を無効とするなら、それに基づいて許可された再稼働も無効のはずです。ところが、裁判所は「桜島や阿蘇など個別の火山を見ると、40~50年以内に噴火するという予測を住民側は立証していない」として、再稼働を認めたのです。

 しかし、この決定は矛盾しています。火山の噴火は予測できないから「火山評価影響ガイド」は無効だとしているのに、その一方で40~50年以内に火山が噴火するという予測は立たないので再稼働してもよいとするのでは、論理的整合性がとれません。……

以下全文は本誌6月号をご覧ください。

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